日本ではレアなB2B×シェアエコマーケットプレイス・Ekuipp、グローバルネットワーク効果のポテンシャルを秘めている
精密機器B2Bマーケットプレイス・Ekuipp
Ekuippは精密機器(計測器・測定器)を扱うマーケットプレイスで以下のユーザーから成り立っている。
- 貸主:精密機器を貸し出す企業
- 借主:精密機器を借りたい企業
運営元はAnybleという企業で、Ekuippの創業背景が創業者の実体験に基づくものであり、詳細は以下で紹介されている。
B2Bで「製造業に使うモノ」が当たり前にシェアされる世界を、自分たちが切り開く|Anyble株式会社
日本国内ではB2Bマーケットプレイスと言えば、eマーケットプレイスが真っ先に想起される。しかし、Ekuippに関しては、「使われていない精密機械」という休眠資産を活用したマーケットプレイスであり、eマーケットプレイスとはやや性質が異なる。
したがって、シェアエコ×B2Bマーケットプレイスという位置付けで、Ekuippの取引構造やマネタイズに関して調査をしてみる。
Ekuippの取引構造とマネタイズ
まず最初にEkuippがどのようなプロダクトであるかを整理し、その後に具体的な取引構造、マネタイズについて調べる。
Ekuippでは精密機械のレンタル・売買が可能
上記の通り、精密機械の貸し借りを行うことができるマーケットプレイス。ただ、貸し借りだけではなく、精密機械によっては借主は買取を行うこともできる。
また、精密機械の校正(計器類の狂い・精度を、標準器と比べて正すこと)や修理をEkuippが承っているということで、調子が悪かったり壊れていたりする精密機械も貸し出しをすることができることが特徴。
Ekuippの取引構造はシンプル
取引構造としては、一般的な流れとなっており、以下の通り。
- 貸主が精密機械を貸し出す
- 借主が一覧ページから借りたい精密機械を探す
- 借主はレンタル期間の間、精密機械を使用する
- 借主は貸主にレンタル期間終了後に返却し、対価を支払う
また、受取に関しては、郵送だけではなく、手渡しという方法もあり、マップという探し方もすることができる。その他には、「レンタル期間終了後に返却」という工程が面倒臭そうではあるが、B2Bである場合、ある程度取引コストが高くとも乗り越えてくれるのかもしれない。
Ekuippのマネタイズは手数料
マネタイズは成約金額の15%を貸主から徴収。
手数料は出品者様の売上金額、またはレンタル料金から15%を徴収致します。
それ以外のマネタイズに関してはまだ行なっていないように思われる。
クリティカルマスへの到達は貸主の集客
領域的にはかなりニッチであり、唯一無二のマーケットプレイスになれるポテンシャルを多分に秘めていると思う。
マーケットプレイスの最初のお仕事であるクリティカルマスへの到達に向けては、最初に貸主を集客することが先決ではないかと思われ、理由は以下の通り。
- 性質上、精密機械を出しておくだけであれば、貸主としては デメリットはない
- 借主はマーケットプレイスのレンタル/売却可能の精密機械が無いと参加するメリットがない
また、借主に関しては「借りたい!」という顕在的なニーズがあるため、SEMで対策をしやすいのでは無いか。SEO対策をするとしたら、「精密機械名 × レンタル/貸し出し (×地域名) 」と言ったところか。プロダクトを窺うに、まだSEO対策は行なっていないように思われる。
それでは「具体的に貸主をどのように集めるか?」という課題に関しては、正直なところ業界事情も分からないので、「泥臭く1つ1つ企業に営業していく」という以外にアイディアが浮かばない。ただ、ニッチな市場ではあるので、口コミによるリファラルの波及は大いにあり得るように感じるし、業界新聞に告知するだけでも効果があるように感じた。
グローバルネットワーク効果に期待
ネットワーク効果には以下の2種類があると言われている。
- global network effects
- root density network effects
出典:Four Questions Every Marketplace Startup Should Be Able to Answer
供給者による供給物(Ekuippであれば、貸主の精密機械)が地域性を保持するものであれば、特定の地域で供給者が多くなればなるほど需要者の利便性は向上するし、需要者が多くなればなるほど供給者の利便性は向上する。具体的な例としては、TaskRabbitなどがある。
一方でグローバルネットワーク効果の代表例としてはAirbnb。Airbnb自体が旅行・宿泊といったテーマを内包しており、本質的にグローバルネットワーク効果を発揮する下地がある。
では、Ekuippはどうであるかというと、グローバルネットワーク効果を発揮できるポテンシャルがあるのでは無いかと考えている。国内における需給バランスだけでなく、視点を海外にまで広げると、「日本製品である」というだけで需要が大きい可能性はあるのではないか。
実際に、Ekuippと同じくB2BマーケットプレイスであるALLSTOCKERは東南アジアでの需要が大きいらしく、既に展開をしている。ALLSTOCKERの場合はレンタルではなく売買であり、Ekuippも東南アジアなどの海外展開をする際には、基本的には売買になると思う。
したがって、借主からの需要は国内外問わずありそうなので、いかに貸主を集めることができるかが論点になってくる。
日本版インスタカート・Twidy、クルーの取引コスト低下方法はインスタカートが参考になる
日本版インスタカート・Twidy
遂に日本にもインスタカートのようなサービスが。運営元はダブルフロンティアという企業でサービス名はTwidy。
マーケットプレイスとして、以下のプレイヤーから成り立っており、テーマとしては「お買い物代行」である。
- お買い物代行を依頼するお客さん(リクエスタ)
- お買い物代行者(クルー)
なお、クルーに関しては以下のように細分化することができる。
- 商品をピックするクルー(ピッキングクルー)
- ピックされた商品を配達するクルー(ドライビングクルー)
したがって、クルーに関しては2種類のユーザーが存在し、連携をするという点がこのマーケットプレイスにおける特徴。
マネタイズに関しては不明点が多いが、Tech Crunchの記事によると以下の通り。
収益源は利用時にユーザーが商品代とは別に支払う代行代金。現在は500円+α(商品の価格などに応じて一定%の金額が加算)を予定していて、Twidyの売り上げを差し引いた分をクルーやパートナー企業に支払う。実証実験時には20%をTwidyの取り分としていたそうだ。
出典:日本版インスタカート「Twidy」が公開へ、まずはライフ渋谷東店を対象に最短1時間で買い物代行 | TechCrunch Japan
Twidyの取引構造
調べたところ、インスタカートとほとんど変わりはないのではないか。
また、Twidyのマーケットプレイスの性質上、素早くリクエスタがクルーとマッチングできることがポイントではないか。
したがって、リクエスタの需要に合わせた十分なクルーの数が必要となり、クルー確保の方法として以下のような方法を取っている。
インスタカート成功はクルーの取引コストを徹底削減
初期リリースでは、クルー側は雇用やアライアンスで対応をしているが、今後拡大をする際には、より個人消費者がクルーとして必要なタイミングが来るはず。
ただ、クルーにとっては「リクエストに基づいて買い物を行い、配達を行う」と取引コストが非常に高い。
少し想像するだけでも、
と非常に難易度が高そう。
したがって、インスタカートではクルーの取引コストを下げる工夫をしている。
工夫1:店内ナビゲーション
クルーとしては、可能な限り効率的に買い物を進めたい。例えば、なるべく冷たいものは後に、等。インスタカートでは店内のマップを作成し、どの商品がどの棚にあるかを明示することで、クルーが効率的な買い物をするために取引コストを下げている。
工夫2:インスタカート専用レジ
インスタカートと提携しているスーパーの中にはインスタカート専用のレジを設けている場所がある。クルーとしては素早く買い物をすることができるので、取引コストが抑えられる。
その他にも、リクエストとリアルタイムでチャットができたり、買い間違い防止のために商品のバーコード読み取り機能があったりと、クルーの取引コストを下げる細かな工夫がなされている。
今後のTwidyのマネタイズはどうなるか
現在は初期リリースということもあり、配送料は無料であるということ。
インスタカートは過去に黒字化に向けて、クルーに対する値下げ、リクエスタに対する値上げを行なっていたりしている。
今後のマネタイズの方法について注視するとともに、先行事例であるインスタカートの情報も追って行きたい。
以下、インスタカートに関して参考にした記事である。
工事マーケットプレイス・Craft Bank、クリティカルマスへの到達は「発注UU数」が鍵だと勝手に思う
工事マーケットプレイス・Craft Bank
Craft Bankは、以下のユーザーから成り立つ工事に関するマーケットプレイス。
- 建設職人(受注者)
- 工事をお願いしたい人(発注者)
マーケットプレイスとしては、以下の性質を帯びている。
- 発注者の発注は無限では無い
- 発注内容がコモディティではない
したがって、取引構造を組み立てる上では以下がポイントになってくる。
- 受注者/発注者ともに、建設職人/案件の検索性が高いこと
- 価格の設定がユーザーに委ねられていること
受注者/発注者ともに、建設職人/案件の検索性が高いこと
検索性が高いことに関しては、以前の記事で書いたCognitive Loadの話が関連してくる。改めて、Cognitive Loadとは「認知負荷」のことであり、今回で言うと受注者が案件を選択をする際に頭を使うか否か、ということである。
そして、その頭を使うか否かに関しては、発注内容の性質に依存する部分があり、発注内容が画一的であれば受注者は頭を使う必要は無いし、発注内容毎にオリジナリティがあるのであれば、受注者は頭を使う必要がある。
今回のCraft Bankで言うと、発注内容は「工事に関する案件」であり、(恐らく)1つとして完全に同じ案件はないはずだし、案件毎に職人に求められるスキルが異なってくるはず。
したがって、発注内容毎にオリジナリティがあるパターンなので、Cognitive Loadが高い=受注者が案件を選択する際に頭を使う必要がある。
この場合、運営側としてやることはいかに素早くマッチングをさせるかということではなく、いかに探せるかということになり、以下のような手段が常套手段である。
- 発注内容に可能な限り多くの情報を持たせる
- 検索する際のフィルタリングの豊富さ
前者に関しては、業者にお願いするよりも発注に関わる取引コストが高いように感じつつも、発注したい職種や案件のキーワードを入れるような仕様となっていたりと、意識しているように感じる。
後者に関しては、フィルタリングでは無いが、GPS機能により受注者は自分に近い発注者の案件を探すことができ、そう言った意味では「自分に近い」という距離の条件が所与になっている。そして、その他にも金額や職種などの基本的な条件フィルタが存在していた。
価格の設定がユーザーに委ねられていること
上記の通り、Craft Bankというマーケットプレイスの発注内容は全てオリジナルであるため、価格に関しても画一的にすることは難しい。
例えば、「マーケットプレイスの発注内容は全てオリジナルである」パターンとして、Airbnbがある。Airbnbではホストが掲示する宿泊所は全て異なり、価格自体もホストが設定する。
しかし、ホストが価格設定を行う場合のあるある問題としては、ホストが「価格設定をどのようにしたらいいか分からない」こと。そこで、Airbnbは相場価格のレコメンドを行い、価格設定の周辺サービスとしてBeyond Pricingというものがある。
UBERの建設職人版のマーケットプレイスでは無い
Craft Bankが以下のように紹介されることにはやや違和感がある。
Uberの建設職人版といえるシェアリングエコノミーアプリなのだ。
出典:建設職人シェアリング「CraftBank」運営のユニオンテックが新体制を発表 | TechCrunch Japan
なぜなら、UBERが取り扱っているものはドライバーであり、乗客としては「(目的地に連れて言ってくれさえすれば) 誰でも良い」のでは無いか。したがって、UBERはCognitive Loadが低い、コモディティ化されているものを扱っていることになる。
その場合、運営としてやるべきことはいかに素早くマッチングをさせることができるかであり、そのためにGPS機能を用いた圧倒的にテクノロジーによるリアルタイムマッチングを実現している。
なので、そもそもとしてUBERとCraft Bankはマーケットプレイスの性質が異なるので、Craft BankはUBERの建設職人版ではないと思う次第。
クリティカルマスへの到達は案件集めから
マーケットプレイスの最初のお仕事はクリティカルマスへの到達であり、到達により流動性の確保を行うこと。流動性の確保とは、需要に応じた供給がなされていることであり、クリティカルマスへの到達とは「参加するコスト < 参加による価値」という構造になること。
そして、これらは一般的に「鶏と卵の問題」、経済学的には「協調問題」と呼ばれており、マーケットプレイスが最初に迎える最初の難所である。
この超難問を解決するための手法として、Craft Bankは(恐らく)発注者の案件集めから取り組むのでは無いかと考えている。
そのように考える理由としては以下の通り。
- 受注者側は既にある程度の囲い込みができている
- スペースマーケット社とのアライアンス
受注者側は既にある程度の囲い込みができている
Craft Bankの運営元であるユニオンテックでは、職人を対象とした以下のサービスを既に展開している。
したがって、Craft Bankのスタートを切る段階で既にある程度の受注者を囲めているのでは無いか。
そのように考えると、Craft Bankのマーケットプレイスの始め方としてはシングルプレイヤーモードであり、シングルサイドのアクイジションは既に完了しており、あとは案件を集めるだけ、というフェーズに来ているのかもしれない。
スペースマーケット社とのアライアンス
スペースマーケット社と以下のようなアライアンスをしており、スペースマーケットのホストに対して修繕サービスを提供するそう。
スペースの小規模なリフォーム・リノベーションや急に発生した設備破損のトラブルが起きた場合に、 『CraftBank(クラフトバンク)』を利用し、工事を発注することでホストの経済的な負担を軽減するサービスです。
出典:工事マッチングアプリ『CraftBank(クラフトバンク)』 スペースマーケットと提携 ホスト向け修繕サービスを提供開始
明らかに発注者から案件を集めようとしている狙いであると思う。そう言った意味ではスペースマーケットのような企業もそうだし、その他にもアライアンスできそうな企業がありそうなイメージ。
マネタイズと重要指標
最後にマネタイズと重要指標について考察してみたい。結論から言うとマネタイズは手数料モデルで、重要指標は発注UU数であると考える。
マネタイズは手数料モデル
手数料い関しては以下の通りで、合計で成約金額の20%を事務局が受け取るみたい。
- 会員登録費用、月額費用、案件登録、案件エントリーは無料です。
- 案件成立時に、発注側から案件金額に加え10%の手数料、受注側から案件金額から10%を安心・安全の場を実現する為のあんしん取引料を通常いただいております。
- ※請求書支払いの場合は、別途請求書発行郵送代がかかります。
- ※あんしん取引料と請求書発行郵送代は今だけ特別に0%と無料です。
20%の内訳としては、受注者10%+発注者10%となっており、両方からもらっているパターン。「両方からもらう」という手数料モデルに関して、他社でも見たことがあるが、「なぜそうするのか」を掘り下げて考えてみたことが無いので、考えてみる。
重要指標は発注UU数
また、KGIはGMVで良くて、その分解としてはMAU×ARPUみたいな分解もあり得るが、成約数×成約単価で見ていくのが良さそう。
成約数に関しては、成約UU数×UUあたり成約数と分解ができ、いづれも発注数に依存する部分が大きい。
発注数に関しては、発注UU数×UUあたり発注数と分解でき、あくまでイメージだが1人のユーザーが何度も何度もリピートして発注する感じの性質では無いので、UUあたり発注数は期待できず、どちらかと言うと、発注UU数を増やすことがグロースのキーになりそう。
また、成約単価に関しては、発注内容の性質上、相場よりも安くなるとはいえ、比較的高い金額になりそうで、どの発注カテゴリから狙っていくのか気になるところ。
重要指標の話をまとめると以下の通り。
- KGIはGMV
- GMV=成約数×成約単価
- 成約数=成約UU数×UUあたり成約数
- 成約UU数×UUあたり成約数は、発注数に依存する
- 発注数=発注UU数×UUあたり発注数
- UUあたり発注数は期待できないので、発注UU数が大事そう
- したがって、発注UU数のグロースが成功の鍵になるのでは無いか
発注UU数のグロースに関しては、ニーズ自体は顕在的なので、SEMで十分に対応可能であると思われ、SEOも頑張れば取れる部分が多いのでは無いかと思ったり。
自分も過去に洗濯機の調子が悪かったり、トイレが詰まったりで業者を呼んだことがあり、納得感があまり無いまま高い金額を請求されて非常に不満を持ったことがある。
そう言った意味で、職人さんと直接やりとりできて、金額合意の上で工事してもらえるのは一個人消費者としては嬉しいところ。
個人消費者にまでカテゴリを広げるかは不明だが、個人的に応援したいプロダクト。