工事マーケットプレイス・Craft Bank、クリティカルマスへの到達は「発注UU数」が鍵だと勝手に思う
工事マーケットプレイス・Craft Bank
Craft Bankは、以下のユーザーから成り立つ工事に関するマーケットプレイス。
- 建設職人(受注者)
- 工事をお願いしたい人(発注者)
マーケットプレイスとしては、以下の性質を帯びている。
- 発注者の発注は無限では無い
- 発注内容がコモディティではない
したがって、取引構造を組み立てる上では以下がポイントになってくる。
- 受注者/発注者ともに、建設職人/案件の検索性が高いこと
- 価格の設定がユーザーに委ねられていること
受注者/発注者ともに、建設職人/案件の検索性が高いこと
検索性が高いことに関しては、以前の記事で書いたCognitive Loadの話が関連してくる。改めて、Cognitive Loadとは「認知負荷」のことであり、今回で言うと受注者が案件を選択をする際に頭を使うか否か、ということである。
そして、その頭を使うか否かに関しては、発注内容の性質に依存する部分があり、発注内容が画一的であれば受注者は頭を使う必要は無いし、発注内容毎にオリジナリティがあるのであれば、受注者は頭を使う必要がある。
今回のCraft Bankで言うと、発注内容は「工事に関する案件」であり、(恐らく)1つとして完全に同じ案件はないはずだし、案件毎に職人に求められるスキルが異なってくるはず。
したがって、発注内容毎にオリジナリティがあるパターンなので、Cognitive Loadが高い=受注者が案件を選択する際に頭を使う必要がある。
この場合、運営側としてやることはいかに素早くマッチングをさせるかということではなく、いかに探せるかということになり、以下のような手段が常套手段である。
- 発注内容に可能な限り多くの情報を持たせる
- 検索する際のフィルタリングの豊富さ
前者に関しては、業者にお願いするよりも発注に関わる取引コストが高いように感じつつも、発注したい職種や案件のキーワードを入れるような仕様となっていたりと、意識しているように感じる。
後者に関しては、フィルタリングでは無いが、GPS機能により受注者は自分に近い発注者の案件を探すことができ、そう言った意味では「自分に近い」という距離の条件が所与になっている。そして、その他にも金額や職種などの基本的な条件フィルタが存在していた。
価格の設定がユーザーに委ねられていること
上記の通り、Craft Bankというマーケットプレイスの発注内容は全てオリジナルであるため、価格に関しても画一的にすることは難しい。
例えば、「マーケットプレイスの発注内容は全てオリジナルである」パターンとして、Airbnbがある。Airbnbではホストが掲示する宿泊所は全て異なり、価格自体もホストが設定する。
しかし、ホストが価格設定を行う場合のあるある問題としては、ホストが「価格設定をどのようにしたらいいか分からない」こと。そこで、Airbnbは相場価格のレコメンドを行い、価格設定の周辺サービスとしてBeyond Pricingというものがある。
UBERの建設職人版のマーケットプレイスでは無い
Craft Bankが以下のように紹介されることにはやや違和感がある。
Uberの建設職人版といえるシェアリングエコノミーアプリなのだ。
出典:建設職人シェアリング「CraftBank」運営のユニオンテックが新体制を発表 | TechCrunch Japan
なぜなら、UBERが取り扱っているものはドライバーであり、乗客としては「(目的地に連れて言ってくれさえすれば) 誰でも良い」のでは無いか。したがって、UBERはCognitive Loadが低い、コモディティ化されているものを扱っていることになる。
その場合、運営としてやるべきことはいかに素早くマッチングをさせることができるかであり、そのためにGPS機能を用いた圧倒的にテクノロジーによるリアルタイムマッチングを実現している。
なので、そもそもとしてUBERとCraft Bankはマーケットプレイスの性質が異なるので、Craft BankはUBERの建設職人版ではないと思う次第。
クリティカルマスへの到達は案件集めから
マーケットプレイスの最初のお仕事はクリティカルマスへの到達であり、到達により流動性の確保を行うこと。流動性の確保とは、需要に応じた供給がなされていることであり、クリティカルマスへの到達とは「参加するコスト < 参加による価値」という構造になること。
そして、これらは一般的に「鶏と卵の問題」、経済学的には「協調問題」と呼ばれており、マーケットプレイスが最初に迎える最初の難所である。
この超難問を解決するための手法として、Craft Bankは(恐らく)発注者の案件集めから取り組むのでは無いかと考えている。
そのように考える理由としては以下の通り。
- 受注者側は既にある程度の囲い込みができている
- スペースマーケット社とのアライアンス
受注者側は既にある程度の囲い込みができている
Craft Bankの運営元であるユニオンテックでは、職人を対象とした以下のサービスを既に展開している。
したがって、Craft Bankのスタートを切る段階で既にある程度の受注者を囲めているのでは無いか。
そのように考えると、Craft Bankのマーケットプレイスの始め方としてはシングルプレイヤーモードであり、シングルサイドのアクイジションは既に完了しており、あとは案件を集めるだけ、というフェーズに来ているのかもしれない。
スペースマーケット社とのアライアンス
スペースマーケット社と以下のようなアライアンスをしており、スペースマーケットのホストに対して修繕サービスを提供するそう。
スペースの小規模なリフォーム・リノベーションや急に発生した設備破損のトラブルが起きた場合に、 『CraftBank(クラフトバンク)』を利用し、工事を発注することでホストの経済的な負担を軽減するサービスです。
出典:工事マッチングアプリ『CraftBank(クラフトバンク)』 スペースマーケットと提携 ホスト向け修繕サービスを提供開始
明らかに発注者から案件を集めようとしている狙いであると思う。そう言った意味ではスペースマーケットのような企業もそうだし、その他にもアライアンスできそうな企業がありそうなイメージ。
マネタイズと重要指標
最後にマネタイズと重要指標について考察してみたい。結論から言うとマネタイズは手数料モデルで、重要指標は発注UU数であると考える。
マネタイズは手数料モデル
手数料い関しては以下の通りで、合計で成約金額の20%を事務局が受け取るみたい。
- 会員登録費用、月額費用、案件登録、案件エントリーは無料です。
- 案件成立時に、発注側から案件金額に加え10%の手数料、受注側から案件金額から10%を安心・安全の場を実現する為のあんしん取引料を通常いただいております。
- ※請求書支払いの場合は、別途請求書発行郵送代がかかります。
- ※あんしん取引料と請求書発行郵送代は今だけ特別に0%と無料です。
20%の内訳としては、受注者10%+発注者10%となっており、両方からもらっているパターン。「両方からもらう」という手数料モデルに関して、他社でも見たことがあるが、「なぜそうするのか」を掘り下げて考えてみたことが無いので、考えてみる。
重要指標は発注UU数
また、KGIはGMVで良くて、その分解としてはMAU×ARPUみたいな分解もあり得るが、成約数×成約単価で見ていくのが良さそう。
成約数に関しては、成約UU数×UUあたり成約数と分解ができ、いづれも発注数に依存する部分が大きい。
発注数に関しては、発注UU数×UUあたり発注数と分解でき、あくまでイメージだが1人のユーザーが何度も何度もリピートして発注する感じの性質では無いので、UUあたり発注数は期待できず、どちらかと言うと、発注UU数を増やすことがグロースのキーになりそう。
また、成約単価に関しては、発注内容の性質上、相場よりも安くなるとはいえ、比較的高い金額になりそうで、どの発注カテゴリから狙っていくのか気になるところ。
重要指標の話をまとめると以下の通り。
- KGIはGMV
- GMV=成約数×成約単価
- 成約数=成約UU数×UUあたり成約数
- 成約UU数×UUあたり成約数は、発注数に依存する
- 発注数=発注UU数×UUあたり発注数
- UUあたり発注数は期待できないので、発注UU数が大事そう
- したがって、発注UU数のグロースが成功の鍵になるのでは無いか
発注UU数のグロースに関しては、ニーズ自体は顕在的なので、SEMで十分に対応可能であると思われ、SEOも頑張れば取れる部分が多いのでは無いかと思ったり。
自分も過去に洗濯機の調子が悪かったり、トイレが詰まったりで業者を呼んだことがあり、納得感があまり無いまま高い金額を請求されて非常に不満を持ったことがある。
そう言った意味で、職人さんと直接やりとりできて、金額合意の上で工事してもらえるのは一個人消費者としては嬉しいところ。
個人消費者にまでカテゴリを広げるかは不明だが、個人的に応援したいプロダクト。