日本版インスタカート・Twidy、クルーの取引コスト低下方法はインスタカートが参考になる
日本版インスタカート・Twidy
遂に日本にもインスタカートのようなサービスが。運営元はダブルフロンティアという企業でサービス名はTwidy。
マーケットプレイスとして、以下のプレイヤーから成り立っており、テーマとしては「お買い物代行」である。
- お買い物代行を依頼するお客さん(リクエスタ)
- お買い物代行者(クルー)
なお、クルーに関しては以下のように細分化することができる。
- 商品をピックするクルー(ピッキングクルー)
- ピックされた商品を配達するクルー(ドライビングクルー)
したがって、クルーに関しては2種類のユーザーが存在し、連携をするという点がこのマーケットプレイスにおける特徴。
マネタイズに関しては不明点が多いが、Tech Crunchの記事によると以下の通り。
収益源は利用時にユーザーが商品代とは別に支払う代行代金。現在は500円+α(商品の価格などに応じて一定%の金額が加算)を予定していて、Twidyの売り上げを差し引いた分をクルーやパートナー企業に支払う。実証実験時には20%をTwidyの取り分としていたそうだ。
出典:日本版インスタカート「Twidy」が公開へ、まずはライフ渋谷東店を対象に最短1時間で買い物代行 | TechCrunch Japan
Twidyの取引構造
調べたところ、インスタカートとほとんど変わりはないのではないか。
また、Twidyのマーケットプレイスの性質上、素早くリクエスタがクルーとマッチングできることがポイントではないか。
したがって、リクエスタの需要に合わせた十分なクルーの数が必要となり、クルー確保の方法として以下のような方法を取っている。
インスタカート成功はクルーの取引コストを徹底削減
初期リリースでは、クルー側は雇用やアライアンスで対応をしているが、今後拡大をする際には、より個人消費者がクルーとして必要なタイミングが来るはず。
ただ、クルーにとっては「リクエストに基づいて買い物を行い、配達を行う」と取引コストが非常に高い。
少し想像するだけでも、
と非常に難易度が高そう。
したがって、インスタカートではクルーの取引コストを下げる工夫をしている。
工夫1:店内ナビゲーション
クルーとしては、可能な限り効率的に買い物を進めたい。例えば、なるべく冷たいものは後に、等。インスタカートでは店内のマップを作成し、どの商品がどの棚にあるかを明示することで、クルーが効率的な買い物をするために取引コストを下げている。
工夫2:インスタカート専用レジ
インスタカートと提携しているスーパーの中にはインスタカート専用のレジを設けている場所がある。クルーとしては素早く買い物をすることができるので、取引コストが抑えられる。
その他にも、リクエストとリアルタイムでチャットができたり、買い間違い防止のために商品のバーコード読み取り機能があったりと、クルーの取引コストを下げる細かな工夫がなされている。
今後のTwidyのマネタイズはどうなるか
現在は初期リリースということもあり、配送料は無料であるということ。
インスタカートは過去に黒字化に向けて、クルーに対する値下げ、リクエスタに対する値上げを行なっていたりしている。
今後のマネタイズの方法について注視するとともに、先行事例であるインスタカートの情報も追って行きたい。
以下、インスタカートに関して参考にした記事である。
工事マーケットプレイス・Craft Bank、クリティカルマスへの到達は「発注UU数」が鍵だと勝手に思う
工事マーケットプレイス・Craft Bank
Craft Bankは、以下のユーザーから成り立つ工事に関するマーケットプレイス。
- 建設職人(受注者)
- 工事をお願いしたい人(発注者)
マーケットプレイスとしては、以下の性質を帯びている。
- 発注者の発注は無限では無い
- 発注内容がコモディティではない
したがって、取引構造を組み立てる上では以下がポイントになってくる。
- 受注者/発注者ともに、建設職人/案件の検索性が高いこと
- 価格の設定がユーザーに委ねられていること
受注者/発注者ともに、建設職人/案件の検索性が高いこと
検索性が高いことに関しては、以前の記事で書いたCognitive Loadの話が関連してくる。改めて、Cognitive Loadとは「認知負荷」のことであり、今回で言うと受注者が案件を選択をする際に頭を使うか否か、ということである。
そして、その頭を使うか否かに関しては、発注内容の性質に依存する部分があり、発注内容が画一的であれば受注者は頭を使う必要は無いし、発注内容毎にオリジナリティがあるのであれば、受注者は頭を使う必要がある。
今回のCraft Bankで言うと、発注内容は「工事に関する案件」であり、(恐らく)1つとして完全に同じ案件はないはずだし、案件毎に職人に求められるスキルが異なってくるはず。
したがって、発注内容毎にオリジナリティがあるパターンなので、Cognitive Loadが高い=受注者が案件を選択する際に頭を使う必要がある。
この場合、運営側としてやることはいかに素早くマッチングをさせるかということではなく、いかに探せるかということになり、以下のような手段が常套手段である。
- 発注内容に可能な限り多くの情報を持たせる
- 検索する際のフィルタリングの豊富さ
前者に関しては、業者にお願いするよりも発注に関わる取引コストが高いように感じつつも、発注したい職種や案件のキーワードを入れるような仕様となっていたりと、意識しているように感じる。
後者に関しては、フィルタリングでは無いが、GPS機能により受注者は自分に近い発注者の案件を探すことができ、そう言った意味では「自分に近い」という距離の条件が所与になっている。そして、その他にも金額や職種などの基本的な条件フィルタが存在していた。
価格の設定がユーザーに委ねられていること
上記の通り、Craft Bankというマーケットプレイスの発注内容は全てオリジナルであるため、価格に関しても画一的にすることは難しい。
例えば、「マーケットプレイスの発注内容は全てオリジナルである」パターンとして、Airbnbがある。Airbnbではホストが掲示する宿泊所は全て異なり、価格自体もホストが設定する。
しかし、ホストが価格設定を行う場合のあるある問題としては、ホストが「価格設定をどのようにしたらいいか分からない」こと。そこで、Airbnbは相場価格のレコメンドを行い、価格設定の周辺サービスとしてBeyond Pricingというものがある。
UBERの建設職人版のマーケットプレイスでは無い
Craft Bankが以下のように紹介されることにはやや違和感がある。
Uberの建設職人版といえるシェアリングエコノミーアプリなのだ。
出典:建設職人シェアリング「CraftBank」運営のユニオンテックが新体制を発表 | TechCrunch Japan
なぜなら、UBERが取り扱っているものはドライバーであり、乗客としては「(目的地に連れて言ってくれさえすれば) 誰でも良い」のでは無いか。したがって、UBERはCognitive Loadが低い、コモディティ化されているものを扱っていることになる。
その場合、運営としてやるべきことはいかに素早くマッチングをさせることができるかであり、そのためにGPS機能を用いた圧倒的にテクノロジーによるリアルタイムマッチングを実現している。
なので、そもそもとしてUBERとCraft Bankはマーケットプレイスの性質が異なるので、Craft BankはUBERの建設職人版ではないと思う次第。
クリティカルマスへの到達は案件集めから
マーケットプレイスの最初のお仕事はクリティカルマスへの到達であり、到達により流動性の確保を行うこと。流動性の確保とは、需要に応じた供給がなされていることであり、クリティカルマスへの到達とは「参加するコスト < 参加による価値」という構造になること。
そして、これらは一般的に「鶏と卵の問題」、経済学的には「協調問題」と呼ばれており、マーケットプレイスが最初に迎える最初の難所である。
この超難問を解決するための手法として、Craft Bankは(恐らく)発注者の案件集めから取り組むのでは無いかと考えている。
そのように考える理由としては以下の通り。
- 受注者側は既にある程度の囲い込みができている
- スペースマーケット社とのアライアンス
受注者側は既にある程度の囲い込みができている
Craft Bankの運営元であるユニオンテックでは、職人を対象とした以下のサービスを既に展開している。
したがって、Craft Bankのスタートを切る段階で既にある程度の受注者を囲めているのでは無いか。
そのように考えると、Craft Bankのマーケットプレイスの始め方としてはシングルプレイヤーモードであり、シングルサイドのアクイジションは既に完了しており、あとは案件を集めるだけ、というフェーズに来ているのかもしれない。
スペースマーケット社とのアライアンス
スペースマーケット社と以下のようなアライアンスをしており、スペースマーケットのホストに対して修繕サービスを提供するそう。
スペースの小規模なリフォーム・リノベーションや急に発生した設備破損のトラブルが起きた場合に、 『CraftBank(クラフトバンク)』を利用し、工事を発注することでホストの経済的な負担を軽減するサービスです。
出典:工事マッチングアプリ『CraftBank(クラフトバンク)』 スペースマーケットと提携 ホスト向け修繕サービスを提供開始
明らかに発注者から案件を集めようとしている狙いであると思う。そう言った意味ではスペースマーケットのような企業もそうだし、その他にもアライアンスできそうな企業がありそうなイメージ。
マネタイズと重要指標
最後にマネタイズと重要指標について考察してみたい。結論から言うとマネタイズは手数料モデルで、重要指標は発注UU数であると考える。
マネタイズは手数料モデル
手数料い関しては以下の通りで、合計で成約金額の20%を事務局が受け取るみたい。
- 会員登録費用、月額費用、案件登録、案件エントリーは無料です。
- 案件成立時に、発注側から案件金額に加え10%の手数料、受注側から案件金額から10%を安心・安全の場を実現する為のあんしん取引料を通常いただいております。
- ※請求書支払いの場合は、別途請求書発行郵送代がかかります。
- ※あんしん取引料と請求書発行郵送代は今だけ特別に0%と無料です。
20%の内訳としては、受注者10%+発注者10%となっており、両方からもらっているパターン。「両方からもらう」という手数料モデルに関して、他社でも見たことがあるが、「なぜそうするのか」を掘り下げて考えてみたことが無いので、考えてみる。
重要指標は発注UU数
また、KGIはGMVで良くて、その分解としてはMAU×ARPUみたいな分解もあり得るが、成約数×成約単価で見ていくのが良さそう。
成約数に関しては、成約UU数×UUあたり成約数と分解ができ、いづれも発注数に依存する部分が大きい。
発注数に関しては、発注UU数×UUあたり発注数と分解でき、あくまでイメージだが1人のユーザーが何度も何度もリピートして発注する感じの性質では無いので、UUあたり発注数は期待できず、どちらかと言うと、発注UU数を増やすことがグロースのキーになりそう。
また、成約単価に関しては、発注内容の性質上、相場よりも安くなるとはいえ、比較的高い金額になりそうで、どの発注カテゴリから狙っていくのか気になるところ。
重要指標の話をまとめると以下の通り。
- KGIはGMV
- GMV=成約数×成約単価
- 成約数=成約UU数×UUあたり成約数
- 成約UU数×UUあたり成約数は、発注数に依存する
- 発注数=発注UU数×UUあたり発注数
- UUあたり発注数は期待できないので、発注UU数が大事そう
- したがって、発注UU数のグロースが成功の鍵になるのでは無いか
発注UU数のグロースに関しては、ニーズ自体は顕在的なので、SEMで十分に対応可能であると思われ、SEOも頑張れば取れる部分が多いのでは無いかと思ったり。
自分も過去に洗濯機の調子が悪かったり、トイレが詰まったりで業者を呼んだことがあり、納得感があまり無いまま高い金額を請求されて非常に不満を持ったことがある。
そう言った意味で、職人さんと直接やりとりできて、金額合意の上で工事してもらえるのは一個人消費者としては嬉しいところ。
個人消費者にまでカテゴリを広げるかは不明だが、個人的に応援したいプロダクト。
訪日外国人とガイドのマーケットプレイス・Huberの「Tomodachi Guide」、ユニークな取引工程で独自の世界観を目指している
訪日外国人とガイドのマーケットプレイス・Huber
Huberが提供するTomodachi Guideは、
- 訪日外国人(以下、ゲスト)
- 国際交流したい人(以下、ガイド)
を「ガイド」というテーマで結びつけるマーケットプレイス。プロダクト名に「Tomodachi」という言葉が入っている通り、体験的にも「外国人とガイドが仲良くなれる」ような仕掛けがされており、非常にユニーク。早速、取引工程から分解をしてみたいと思う。
ゲストが旅診断を完了させる
ゲストはTomodachi Guideを利用する際には、旅診断と呼ばれる10問程度の質問に回答。この旅診断を元に、ガイドがドラフトプランと呼ばれる旅のプランを提案してくれる。
ガイドが旅診断を元にドラフトプランを提案する
ドラフトプランは旅のプランであり、ゲストの旅診断を元にして、ガイドからゲストに提案がされる。
ゲストがドラフトプランを元にガイドを選ぶ
ゲストはドラフトプランの中から良いと思ったものを選択し、詳細に関するやりとりを通じて、最終的にどのガイドにするかを決める。
ゲストとガイドが旅行を楽しむ
ゲストとガイドが待ち合わせ場所で合流し、自己紹介や簡単な打ち合わせを行なった後に、プランに基づいて、旅行を楽しむ。
取引工程におけるユニークなポイント
取引工程を見ていくと、マーケットプレイスの性質的に、
- 対面でのサービス提供を行う
- しかもサービス提供は異文化コミュニケーションになる
ため、ゲスト・ガイドともに取引コストがめちゃくちゃ高い。しかし、
「友だちをもてなすように」案内する
出典:What is Huber? - Tomodachi Guide - Planning a trip in Japan with local guide - Tomodachi Guide
という文言が明記されていることからも、「本当に良い体験を提供しよう」というプロダクトとしての信念や哲学を感じる。そんな信念や哲学を感じたポイントは以下。効率化だけを考えたら絶対にやらない方法だなと感じた。
旅診断を通じた綿密なプランニング
ただ「取引コストを下げる」というだけであれば、
- ホストは、行き先を旅診断に書くだけで良い
- ガイドは、行き先に合わせたテンプレのドラプトプランを出せば良い
と思うのだが、そうではなく、完全オーダーメイドで旅のプランを考えている。プロダクトのコンセプトに沿って充実に「友達のようにもてなす」のであれば、確かにゲスト1人1人に合わせた個別最適な旅のプランが良い。
ガイドは1人ではなく、2人のペアガイド制度
有償で行うガイドは、通訳案内士法では資格保有者のみに限定されていたが、2018年1月に法改正がなされ、資格保有者でなくてもガイドをすることができるようになった。
しかし、現在でもペアガイド制度は継続されており、ガイドはメインガイドとサポートガイドの2人で行うことになっている。
コストだけを考えれば2人よりも1人の方が運営側としては安く済ませることができるが、「ガイドも友達のように仲良くなるため」とのことで、まさに信念・哲学が反映されている仕組みになっていると思う。
料金設計とマネタイズ方法
気になるお金周りを調べてみる。話としては料金設計とマネタイズ方法に分かれるので、分ける。
ゲストとガイドの料金設計
- ゲストは、ガイドに7,500円/3時間の支払いを行う
- 7,500円/3時間の内訳としては、メインガイド:4,500円/3時間+サポートガイド:3,000円/3時間
- メインガイド:4,500円/3時間の内訳としては、交通費:1,500円+ガイド費:3,000円(時給1,000円×3時間)
- サポートガイド:3,000円/3時間の内訳としては、交通費:1,500円+ガイド費:1,500円(時給500円×3時間)
「 意外とガイドはもらえないんだな」というのが率直な感想ではあるが、そもそものモチベーションとしては「国際交流がしたい!」と思っている人たちなので、「むしろお金がもらえるなんて!」と感じていることや、主に大学生がガイドをしているということからも、時給換算したら「意外と普通かも」と思い直した。逆に言えば、ゲストからしたら「安い!」と思うし、ただでさえ旅の資金を節約できるのは非常に良いと思った。
Huberのマネタイズ方法
- ゲストには、ガイド料金の15%をサービス手数料とする
- ガイドには、メインガイド・サポートガイドからそれぞれ1,500円、合計3,000円をサービス手数料とする
したがって、ある旅が3時間きっかりで行われたとしたら、
- ゲストは、ガイドに7,500円、Huberに1,125円、合計で8,625円を支払う
- メインガイドは、Huberに1,500円を支払うため、交通費除くと1,500円の儲け(時給換算:500円)
- サポートガイドは、Huberに1,500円を支払うため、交通費除くと0円の儲け(時給換算:0円)
- 1つの旅(成約)により、Huberの収益は4,125円となる
やはり、お金稼ぎがモチベーションではなく「国際交流がしたい!」というモチベーションがある人だけが取り組んでいるのだなと感じた。
また、ある種この時給換算がフィルタリングの機能を果たしていて、「この時給でも取り組む人=お金ではなく、国際交流をしたい人」であるため、「本当にやりたい人」が集まるのではないかと感じた。
また、ホームページで「Trip Outline」という数値が22,673件(2018年8月28日時点)であると公開されており、全ての旅が3時間であるとしたら、
- GMV:170,047,500円(7,500円×22,673件)
- ゲストからのサービス手数料:25,507,125円(170,047,500円×15%)
- ガイドからのサービス手数料:68,019,000円(22,673件×3,000円)
- 合計サービス手数料:93,526,125円(25,507,125円+68,019,000円)
と、約9,350万円の収益をHuberが上げているのではないかと推測できる。
別府支店で、別府温泉とAPU大学の資源活用
最後に面白いと感じたのは、本社は鎌倉にあるそうだが、支社として大分県別府市に支店があること。
別府と言えば真っ先に「別府温泉!」というくらい強力な観光資源を有しており、訪日外国人が集まる可能性が高い。
また、ガイド側に関しても別府にはAPU大学が位置しており、「英語の話せて、国際交流をしたい」可能性が高い人が集まっている。
恐らく、この観光資源と大学資源を組み合わせることを狙っているのではないかと思い、非常に上手さを感じた。
実際に使用をしていないので、推測となる部分があったが、2020年の東京五輪に向けてますます盛り上がるインバウンド分野なので、今後の成長が気になるところ。
また、ゲストは訪日外国人であるため、どのように獲得をしてきているのかも非常に気になる。旅行業界であるとCPAが高そうなので、リスティングよりもオーガニックやリファラル重視の施策になるだろうか。
全体的にプロダクトに対して信念・哲学を感じ、素敵だと感じた。