私的マーケットプレイス研究所

マーケットプレイスビジネスについて学んだことを書き留める。

"供給内容"がマーケットプレイスの取引構造を決める、Cognitive Load(認知負荷)の高低がポイント

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供給内容がマーケットプレイスの取引構造を規定

AirbnbでPMを務めていたJonathan Golden氏の記事Four Questions Every Marketplace Startup Should Be Able to Answerでは、以下4つの観点を提示している。

この中でも「供給内容の種類に従って、マーケットプレイスの取引構造が変わってくる」ということに関して、個人的に示唆があったのでまとめてみる。

 

Homogeneous vs. Heterogeneous Supply

記事内では供給内容の種類として「Homogeneous」「Heterogeneous」があるとしている。ここではそれぞれを以下のように理解すると良い。

  • Homogeneous:均質的なモノ
  • Heterogeneous:独自的なモノ

つまり、供給内容がユニークであるか否かということ。

 

Homogeneous Supplyの場合の取引構造

例としてはUBERUBERは言わずもがなドライバーと乗客を結びつけるマーケットプレイス

UBERにおける供給はドライバーであり、以下のような性質を帯びている。

  • ドライバー自体は需要者である乗客から見れば均質的であり、目的地に連れて行ってくれれば誰でも良い
  • したがって、「どのドライバーにお願いしようかな」という取引工程は不要

Homogeneous Supplyを扱うマーケットプレイスである場合、供給内容自体で競合と差別化することが難しく、いかに素早く取引をすることができるか、という取引コストの押し下げがポイントとなる。

したがってUBER以前の記事でも書いたが、巡回サラリーマン問題をテクノロジーの力で解決し、ドライバーと乗客の効率的なマッチメイキングを実現しており、まさにUBERプロプライエタリ・テクノロジーと言って良いだろう。

 

Heterogeneous Supplyの場合の取引構造

例としてはAirbnbAirbnbも言わずもがなホストとゲストを結びつけるマーケットプレイスである。

Airbnbにおける供給はホストであり、以下のような性質を帯びている。

  • ホストは自分の家を宿として供給する
  • 供給される宿は1つとして同じものはない
  • したがって、需要者であるゲストは「どの宿にするか」を見極めるという取引工程が必要

Homogeneous Supplyを扱うマーケットプレイスと異なり、Heterogeneous Supplyを扱うマーケットプレイスは、供給内容に独自性を帯びるので、競合との差別化をしやすい。しかし、その場合であると需要者が「自分好みのものを探すのが大変」という問題が生じる。したがって、いかに自分好みのものを探すことができるか、という検索性的な観点からの取引コストを押し下げる工夫が必要になってくる。

この場合、Airbnbに限らず、以下のような工夫をすることが王道である。

  • 検索結果画面のパーソナライズ
  • 検索フィルタリングの豊富さ

こういった工夫をするためには以下のようなデータ蓄積が必要で、戦略的に取り組まないと実現することができない。

  • マッチングしやすいホストとゲストの属性データ
  • ホストの供給する宿の細かなデータ

 

マーケットプレイスのCognitive Load

記事内では、これらのマーケットプレイスの最も大きな違いとして「Cognitive Load」に言及をしていた。直訳すると認知負荷で、もっと簡単に捉えるのであれば需要者が供給を選択する際に頭を使うか・使わないかといった話だと思う。

頭を使うのであれば、探しやすくしてあげれば良いし、頭を使わないのであれば、体験をシンプルに素早くできるようにしてあげれば良いということだった。

マーケットプレイスの取引構造を構築する際に非常に肝になるポイントだと感じた。

Reduce Goのスウェーデン版・Karma、「大手スーパー囲い込み」が流動性確保の要因か

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フードロス解消マーケットプレイス・Karma

スウェーデン発のフードロス解消マーケットプレイス・Karmaについて今回は調べてみた。Karmaは以前調べた日本のReduce Goと取引の流れ自体はほぼ同じで、以下のような感じ。

  1. 飲食店(売り手)が売れ残り食品を出す
  2. 消費者(買い手)が食品リストの中から欲しい食品を注文する
  3. 消費者(買い手)が飲食店(売り手)にまで取りに行く

Reduce Goであるとマネタイズは消費者(買い手)からで、月額1,980円で、1日2回注文することができる。

しかし、Karmaの場合、消費者(買い手)は食品の購入金額だけで、特にそれ以外の費用はかからないみたい。なので、飲食店(売り手)から手数料を取っているのだと思うが、特に明記がされておらず、マネタイズの仕方が掴めない。

 

Karmaは流動性を確保しているのか

まず、流動性とは「需要に応える十分な供給があり、取引が円滑に行われる」ことであり、そのためにはクリティカルマスに到達をする必要がある。まず、Karmaの公開されている数値周りを整理してみると、以下の通り。

  • 売り手(飲食店):1,500件以上
  • 買い手(消費者):35万人以上

Reduce Goと同じく、買い手のメリットが強いので、恐らく状況としてはReduce Goと同じく、需要過多になっているのではないか。

需要過多である場合、「パワーセラーの獲得がポイントではないか」と思っており、Karmaの場合、以下のようなパワーセラーの獲得に成功しているみたい。

Ruta Baga、Marcus Samuelsson’s Kitchen、およびTableなどの有名レストランや、Sodexo、Radisson、Scandic Hotelsなどの有名企業、および大手スーパー3社も、パートナーとしてKarmaを利用している。

2月からはイギリスでもサービスの提供を開始しており、すでにロンドンの400件以上のレストランがKarmaを利用しているとのこと。地元でよく知られるAubaine、Polpo、Caravan、K10、Taylor St Barista’s、Ned’s Noodle Bar、およびDetox Kitchenなどが名を連ねている。

 出典:売れ残り食品の再販マーケットを提供するKarma、1200万ドルを調達 | TechCrunch Japan

 有名レストランももちろん魅力的だが、「大手スーパー」というのがポイントかと思っている。日次で大量のフードロスが生じるし、いくつかのエリアに展開している可能性が高いので、かなりの食品を供給できるパワーセラーであると思う。

また、ロンドンにも展開しているということを考えると、スウェーデンという地域においては既に流動性を確保しており、スケールをさせるフェーズなのではないか。

 

勝手に、こういったサービスの利用シーンは「あくまで居住地域の近辺の飲食店」に限って考えていたが、そんなことはなくて、

Karmaをよく利用するのは25歳から40歳までの、若いホワイトカラー層なのだとのこと。オフィス街で働き、帰りに夕食をピックアップして帰るというスタイルが目立つのだそうだ。 

出典:売れ残り食品の再販マーケットを提供するKarma、1200万ドルを調達 | TechCrunch Japan

 というように「通勤の帰り道」は確かに利用シーンとして全然ありそう。Reduce Goも日本での成功に向けて、どのようにパワーセラーを獲得していくのか注目したい。

キャンセルした宿泊権利のマーケットプレイス・cansell、「売り手の拡大」と「取引コスト最小化」の勝手な考察

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cansellとはどういったマーケットプレイス

cansellは「宿泊施設のキャンセル」をテーマとして扱っており、

  • 売り手:行けなくなってしまった宿泊施設の宿泊予約権を売りたい人
  • 買い手:安く宿泊施設に泊まりたい人

を結びつけるマーケットプレイスになっている。

 

取引の工程としては、

  1. 売り手が、行けなくなった宿泊施設の宿泊予約権を売る
  2. 買い手が、サービスから目当ての宿泊予約権を探す
  3. 買い手が、宿泊予約権を購入する
  4. 買い手が、売り手に支払いを行う

というもので、1つずつ分解して掘り下げて行こうと思う。

 

売り手が、行けなくなった宿泊施設の宿泊予約権を売る

「宿泊施設に何かしらの理由で宿泊することができなくなってしまったユーザー」を対象にしており、売る時のポイントは以下の通り。

  • 売る方法には「買取」と「出品」がある
  • 「買取」とは、cansell事務局が査定金額に応じて、買い取ってくれること
  • 「出品」とは、売り手がマーケットプレイスに、値付けをして出品すること
  • 「買取」にせよ「出品」にせよ、売れる値段は「予約金額を超える」ことは無い
  • 逆に言えば、キャンセル費用+α分は回収できる可能性がある
  • なお、手数料として、売り手が成約金額の15%をcansell事務局に渡す

 

買い手が、サービスから目当て宿泊予約権を探す

売り手が宿泊予約権を売ると、サービス上に掲載される。買い手は恐らく「安く泊まりたい」と思っているユーザーがメインでマーケットプレイスを訪れているのでは無いか。探す際のポイントは以下の通り。

  • cansellで売り出されている宿泊予約権とは別に、人気旅行サイトの宿泊料金とも比較検討できる
  • cansellで売り出されている宿泊予約権は破格の場合がある
  • 売り出されている宿泊予約権は全て事務局の審査済みなので、安心

 

買い手が、宿泊予約権を購入する

お目当ての宿泊予約権が無事に見つかったら、即購入できる。また購入時には条件交渉とかもできるみたい。購入時のポイントは以下の通り。

  • 宿泊施設への予約変更は「名義変更」がポイントとなり、cansell事務局が代行
  • 「名義変更」を行うことで、買い手は宿泊施設に泊まることができる
  • 「名義変更」を行う規約的な立て付けは準委任契約となっている

 

買い手が、売り手に支払いを行う

最後の、お金が買い手から売り手に流れるプロセスで厳密にはcansell事務局が一時的に預かっており、ポイントとしては以下の通り。

  • 支払いのモデルとしてはエスクロー形式
  • 宿泊施設への支払い自体は売り手が行う
  • したがって、売り手としては一時的にキャッシュアウトし、買い手からcannsell事務局を通してキャッシュインされる

 

クリティカルマスに到達するには

恐らく、サービスをざっと見る限りではあるが、クリティカルマスへはまだ到達していないものと思われる。クリティカルマスに到達する上でのポイントとしては、「いかに供給、つまり売り手を増やせるか」と「取引コストを最小化できるか」にかかってきそう。

 

どのように売り手を増やすか

売り手の候補としては、上記で説明したような宿泊施設への宿泊者のパターンと、宿泊施設自体が実はあるのではないかと思っている。

 

宿泊者の売り手を増やすには

前者の宿泊者に関しては、「宿泊施設へのキャンセルがよく発生するコミュニティ」というのが世の中にあるのだろうか。したがって、これらのユーザー層へのアプローチが非常に難しそう。

ざっと考えられる方法としては、

くらいで、SEM的な手法でポイントとなる「検索ボリューム」は微々たるものでは無いかと思っている。

そこで、もう少し深く考えてみると、宿泊者への最初のタッチポイントは「宿泊施設のキャンセル時」ではなく「宿泊施設の予約時」ではないかと思った。

cansell内ではcansell独自の商品だけでなく、他社旅行サイトの宿泊施設も掲載をしている。これらのページに対するオーガニックからの流入を期待しており、以下のように「宿泊施設名×格安予約」「宿泊施設名×一括比較」といったクエリで対策をしていそう。

したがって、宿泊者へのアプローチ方法としては、基本的にはSEMで、ロングテールクエリを根気強く拾っていく、という感じだろうか。

※詳細ページの表示は動的URLで、canonicalが静的URLになっているのだけれども、静的URLに遷移すると動的URLにリダイレクト?されるというややこい仕様になっている。

 

宿泊施設の売り手を増やすには

宿泊施設の方が宿泊者よりも売り手としての質は良さそうで、理由としては以下の通り。

  • 宿泊者よりも宿泊施設の売り手の方がリピートするから(宿泊者のリピートはほとんど無いのでは)
  • 宿泊施設の方がバルクで数を稼ぐことができるから

 そこで、打ち手自体は既に打たれていて、パートナープログラムという形で、以下のようなスタンドアローンな価値提供を宿泊施設に対して行なっている。

  • キャンセル料保証
  • キャッシュバック
  • 公式サイトへ送客
  • 提携サービスの利用優待

特にキャンセル料保証はホテルとしては、誘引が大きく、

お客様へキャンセル料の請求が発生した場合、請求額の一部を保証しお支払いします。

出典:Cansell パートナープログラム

 とのこと。

まさにマーケットプレイスにおけるワンサイドへのスタンドアローンな価値提供で、ユーザーを囲い込もうとしている手法であると感じた。

しかし、Tech Chruchの記事によると必ずしもその展開である可能性は確定では無いみたいで、どういった理由なのか気になる。

また、将来的には、直前キャンセルをホテル側が出品できるというような、ホテルも利用できるサービスへ進化するという考えもあるようだが、「最終的にホテルからの出品を受け付けるかどうかはまだ検討中」(山下氏)としている。

出典:宿泊権利の売買サービス「Cansell」、ホテル向けにキャンセル料の保証含むプログラム開始 | TechCrunch Japan 

 全国ではなく、まずはニッチな地域で、そういった宿泊施設を捕まえていくのが良さそうだなと勝手に感じている。

 

取引コストの最小化 

2つ目のクリティカルマスへの到達に向けたポイントで掲げたのが「取引コストの最小化」。

取引の工程で見たように取引コストは総じて低そうに思える。

  • 名義変更はcansell事務局でやってくれる
  • 売る時には、予約メールを転送するだけで良い
  • 「買取」の売り方であれば、自分で値付けに悩む必要性がない

などなど、取引コストを押し下げる工夫がいくつかある。

そこで、あえて「さらに取引コストを下げるなら」というところで言うと「売る際の導線変更」になるだろうか。現在であると、売り手は会員登録をした上で、宿泊予約権を売るような流れになっている。

売り手に対するユーザーインタビューを行なったわけでは無いが、気持ちとしては「早く、このキャンセル料金をなんとかしたい」と思っているのでは無いか。

仮に、この心境である売り手が多いのであれば、

  1. 会員登録させて、
  2. 売り方を選んでもらって、
  3. (「買取」形式であれば)査定を待ってもらう

と、「売り手の逸る気持ちに対して取引が対応していない」ように思える。したがって、もっと取引コストを押し下げるのであれば、

  1. 電話番号を公開し、
  2. 電話で元々会員登録で必要であった項目も聞きつつ、フローを全て説明し
  3. (「買取」形式であれば)査定を待ってもらう

みたいに、人力を挟む方が売り手としての取引コストが下がるのでは無いかと思った。もちろん、cansell事務局のオペレーションコストが上がるのだが。

 

2018年8月20日に2億円の資金調達も行なっているみたいなので、今後どのような展開を行なっていくのかが楽しみ。

広告など通常のマーケティング施策はもちろん、キャンセルを申し込んできた宿泊者に対してホテルから「Cansellというサービスがある」と紹介してもらうなど、ホテル側を巻き込んだ施策も展開していくという。 

出典:キャンセルした宿泊権利を売却できる「Cansell」が2億円調達 | TechCrunch Japan

 という記載もあり、なるほど!と思った。SEMだとどうしても検索ボリュームが小さくでアクイジションのスピード感が出ないので、宿泊施設起点によるリファラマーケティング

現時点で買い手としては非常に使いやすいので、今度ふらっとどっかに行きたくなったら、覗いてみようと思った。(スマホWebでも見やすいが、やっぱりアプリ欲しい。)