私的マーケットプレイス研究所

マーケットプレイスビジネスについて学んだことを書き留める。

マーケットプレイスの取引コストとは?取引コストを下げていると思った事例

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取引コストとは

取引コストとは、価格以外にかかるコストのこと。例えば、お菓子をコンビニ行った際に、お菓子自体には「お金」というコストがかかるが、それ以外にも以下のようなコストがかかっており、これらが取引コスト。

  • コンビニまで行く時間的コスト
  • 目当てのお菓子を探すコスト
  • 財布を出して会計を済ませるコスト
  • お菓子を持って家にまで帰るコスト

マーケットプレイスに限らず、多くのビジネスは取引コストを従来よりも爆発的に下げることで、成功をしてきた。

例えば、Googleであればキーワードを打ち込むだけでお目当ての情報を見つけることができるようになったし、Amazonであればあらゆる商品がオンラインで発見・購入できるようになった。

マーケットプレイス型のビジネスであると基本的にはモノは持っておらず、あるのはネットワークだけ。前提として、そのネットワークの存在が従来よりも取引コストを押し下げるようになっていないといけないし、それに付随する体験がまた取引コストを最小化するようなものになっていないといけない。

 

ネットワークの存在自体が取引コストを下げるようなもの

ティンダーが分かりやすい例。ティンダーの場合、他のデーティングアプリと同様にオンラインで彼氏・彼女候補を見つけることができる。

従来であると、飲み会に行ったり、クラブに行ったり、はたまたナンパをしたりと、取引コストが非常に高かったが、それをマーケットプレイスという形でネットワーク化することで、ティンダーという存在自体が「彼氏・彼女候補を見つける」ための取引コストを押し下げた。

 

付随する体験の取引コストを最小化

ティンダーと言えば、顔写真を見て「あり」「なし」にスワイプで選り分ける、あのUXが非常に印象的。存在自体が取引コストを押し下げはするものの、その体験もまた取引コストが小さくないとユーザーは継続しないし、競合にも勝てない。

当時はデーティングアプリと言えば、

  • プロフィールを真面目に書く
  • お目当ての女性を探す
  • お目当ての女性に丁寧に連絡する
  • 返信が来るのを気長に待つ
  • 仮にOKだったらデートができる

といった体験になっており、取引コストが高かった。それをティンダーの場合は、

  • 「あり」「なし」をスワイプで選り分けるだけ
  • 「あり」同士でマッチングしたら、デートに行ける

と(工程をかなり端折ったが)従来のデーティングアプリよりも体験という側面で取引コストを最小化している。

 

メルカリの出品UX

最近(2018年9月現在)、メルカリがCMでやっている「バーコード出品チャレンジ」、これはまさに出品者の取引コストを押し下げる施策。

www.youtube.com

通常の出品であると、自分で商品名や詳細を打ち込んだり、カテゴリを選んだり…と確かに手間ではあった。

しかし、バーコード出品によりバーコードから商品名やカテゴリ、商品の詳細まで勝手に入力をしてくれ、取引コストを大幅に下げることができている例だと思う。

また、メルカリの体験で面倒臭いと思うポイントとしては商品の梱包や郵送。この点に関しては、出品代行という形で取りに来て渡すだけ、という体験を提供しているトリクルというサービスがあるので、これも取引コストを最小化するようなプロダクト。

 

Airbnbの宿泊先探索UX

もはや当たり前ではあるが、何かを探す際にはフィルタリングできればできるほど、自分好みのものを探すことができるようなサービスが世の中には多い。

Airbnbもまさにで、扱っているものは宿泊先で、ゲストとしては可能な限り自分の要望にマッチするような宿泊先を見つけたい。

その上で、フィルタリング機能が以下のように充実している。

  • 日付
  • 地域
  • 人数
  • 部屋の対応
  • 料金
  • ベットの数
  • スーパーホストか否か
  • バリアフリー設備
  • アメニティ
  • 建物タイプ
  • ホスト可能言語

この他にもいくつかあるが、これだけあればマッチする宿泊先が見つかりそう。ここまでフィルタリングできるというのは、ゲストに「細かに宿泊先の条件を入力する」という取引コストを払ってもらっているからであり、そこは表裏一体なのかもしれない。

ただ、定石として、お金を受け取る側の取引コストは、払う側と比較してある程度高くなってしまっても良いのかも

 

その他取引コストを押し下げそうなプロダクト

マーケットプレイスに限らず、従来よりも取引コストを下げそうだなと思ったプロダクト。

 

カオナビ・TALENT FIDER

カオナビと言えばタレントマネジメントのSaaSだが、カオナビ内で蓄積された人事データを元に「〇〇さんみたいな人がほしい!」とすることで、それがそのまま募集要項に反映されるのがTALENT FINDER。人材募集時に手間な募集要項の作成の取引コストを下げている事例だと思う。

クラウド人材管理ツール「カオナビ」が人材紹介会社の求職者データベースと連携した新機能を発表 | TechCrunch Japan

 

リクポ・requpo

美容院の予約といえば、自分で美容院を探して、日時をいちいち調整してやっと予約ができる、と手間がかかるイメージ。しかし、requpoではユーザーの要望(日時や金額、希望メニュー等)から最適な美容師がオファーをしてくれるプロダクトで「自分で予約をしない」というありそうで無かった形のプロダクト。

“検索しない”美容室予約アプリ「requpo」運営元が8000万円の資金調達、ビジネスモデル特許も | TechCrunch Japan

 

取引コストの低下がクリティカルマス到達にも繋がる 

クリティカルマス到達のためには、

  • 需要に応える十分な供給
  • ネットワークへの参加による価値 > 参加によるコスト

が必要であり、参加によるコストを可能な限り押し下げるためには、取引コストを押し下げていく必要がある。

例えば、買い物代行マーケットプレイスであるインスタカートでは買い物をする人の取引コストを下げるために、

  • 店内のどこに商品が置いてあるのかが分かるマップ
  • インスタカート専用のレジ

など、素早く買い物を済ませることができるような仕組みになっている。

仮に、これらの仕組みが無かったとしたら、インスタカートで買い物代行することによって得られる価値(金銭的報酬)よりもコスト(ユーザー登録、買い物)が大きくなってしまっていた可能性がある。

マーケットプレイスにおいては、売り手よりも買い手を集めることの方がしばしば難しい場合が多い。

しかし、売り手の取引コストを可能な限り低くすることで、マーケットプレイスへの供給量を最大化することができ、運営するマーケットプレイスに「在庫」という概念が存在しないのであれば、需要を満たすための供給としてストックをすることができる。

C2Cマーケットプレイスの代表格だったチケットキャンプ、どんなマーケットプレイスだったのか少し振り返り

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チケットキャンプとは

ミクシィの子会社であるフンザによって運営されていたチケット売買のマーケットプレイス。現在は色々あって2018年5月末に閉鎖している。

マーケットプレイスとしての仕組み自体は「チケット」を媒介として以下のユーザーが存在していた。

  • チケットを売りたい人(売り手)
  • チケットを買いたい人(買い手)

チケットキャンプのマネタイズや転売目的のチケット販売に関する問題などを掘り下げて考えてみたい。

 

マネタイズは取引手数料と決済システム料

マネタイズは売り手と買い手から手数料をもらっていたらしい。それぞれで切り分けて見ていく。

 

売り手からの取引手数料

以下のパターンがあるらしい。

  • チケットの代金が8,000円以下:一律690円
  • チケットの代金が8,001円以上:チケット代金の8.64%

金額の多寡で手数料の受け取り方が違うにせよ、最低でも手数料率8%強以上は担保されていた。

 

買い手から取引手数料と決済システム料

まず、取引手数料に関しては、買い手側は最終的には「無料」になったそうで、元々は以下の通り。

  • チケットの代金が8,000円以下:一律400円
  • チケットの代金が8,001円以上:チケット代金の5%

次に、決済システム料が買い手側にかかってしまうみたいで、以下の通り。

  • チケット代金が〜10,000円:324円
  • チケット代金が10,001円〜20,000円:540円
  • チケット代金が20,001円〜:3.24%

 

1回の取引で最低でも1,000円以上の収益

以上から、

  • 売り手からは最低でも取引手数料690円
  • 買い手からは最低でも決済システム料324円

を事務局が受け取ることができるので、1回の取引で事務局は1,000円以上の収益を上げることができたみたい。

 

チケットキャンプのMAU×ARPU

2017年5月10日に公開されたミクシィ社の決算資料では、チケットキャンプに関して、以下の数値が公開されていた。

  • 会員登録数は累積300万人を突破(2017年3月16日時点)
  • 月次GMVは58億(2016年12月時点)

出典:FY2017 決算説明資料

したがって、MAUに関しては、なんとも分からないのだが、仮に買い手側のMAUが100万MAUあるとしたら、ARPUは5,800円程度になる。

個人的には「意外と高い」という感想で、チケット購入UU数だけでなく、UUあたりチケット購入数(1人あたりがチケットを購入する回数) も高そうで、恐らく1回/月次ではなく、2回〜3回/月次くらいありそうなARPUだなと感じた次第。

また、MAU×ARPUの話ではないが官報によると当期純利益は17億円強出ていた模様。 

 

売り手側のモラルハザードを防止できず 

最終的に、チケットキャンプは「閉鎖」という形に追い込まれたが、閉鎖以前も議論を引き起こしていた、売り手側のモラルハザード「転売目的のチケッチ販売」に関して考えて見たいと思う。

 

マーケットプレイスのモラルは事務局が守る

マーケットプレイスでは、マーケットデザインという考え方があり、つまり市場の設計を行うということ。いくつか要素があるのだが、そのうちの1つに「安全性」がある。

その他にもマーケットプレイスにはガイドラインが必要で、ガイドラインが無いと、割れ窓理論的にどんどんと治安が悪くなり、マーケットプレイスそのものの質が下がっていく。

したがって、マーケットプレイスにおいて、いくらエンドユーザー間の責任において取引がなされているとは言え、事務局がマーケットプレイスにおけるモラルを厳しく取り締まる必要がある。

 

本来のマーケットプレイスの形から逸脱

チケットのC2Cマーケットプレイスで起きたモラルハザードとしては売り手が転売目的にチケットを買い占め、マーケットプレイスで高値で売ること。チケットを買い占めるにも手元にある程度のキャッシュが無いと実行ができないため、個人単位ではなく組織というある程度大きな単位で行われていたと推測できる。

本来的に、チケットキャンプは「行くはずのライブやイベントに行けなくなってしまった場合のチケットの売り先」という役割を果たすべきマーケットプレイスだったが、実態としてはそうで無くなってしまっていた。

このマーケットプレイスという範囲においては、高値の転売でも買い手側の需要が強かったため、市場原理として売り手が買い手の足元を見る形で成り立ってしまっていた。したがって、ある意味では経済的には合理的な現象であると捉えることができる。

 

転売目的のチケッチ販売を防ぐには

本人認証を目的とした電子チケットの推進や音楽団代によるチケット売買のマーケットプレイスチケトレなどが対策として講じられている。このチケトレでは、売買時の価格はあくまで定価であり、売り手側の転売を目的とした買い占めインセンティブが薄れるようにされている。

一方で、問題自体は根深く、根本的な解決には至っていないため、転売目的にチケット買い占め及び高額な販売は根絶できない、という声もある。

現在ではC2Cの大手チケット売買マーケットプレイスチケット流通センター。売り手に対しては 本人確認を必須とすることで、転売目的に販売を防ぐ意図か。

このように、ユーザーへの取引コストを多少高めてしまったとしても、マーケットプレイス自体がモラルを保ち、そのための仕組みを作る等、地道に変化させていくしかないのかも。

UberEATSの仕組み、配達員はアプリで配達可否をオプトイン/アウト

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フードデリバリー・Uber eats

ライドシェアのマーケットプレイスを展開しているUberのフードデリバリーサービス・Uber ears。日本上陸から2年が経過し、順調に事業としても伸張していることが伺える。

Uber eatsはシェアエコ型のマーケットプレイスで、大まかに以下のユーザーから成り立っている。

  • 需要者:フードデリバリーの注文者
  • 供給者:レストランと配達パートナー

今まで自分の場合、あくまで需要者の側面しかUBER eatsを見ていなかったが、「よくもまぁ注文するタイミングにちょうどよく配達する人がいるもんだな」と思ったので、供給者側の仕組みを疑問に思った順に調べてみたいと思う。

 

なぜ注文時にちょうどよく配達員がいるのか

「配達員が多くいるから」と言ってしまえばそれまでだが、1年前時点では配達員は5,000人程度いたそうなので、今ではエリアも拡大し、もっと多くいるのではないか。

1000人程度だった配達員の数は、現在は5000人を超えている。

出典:上陸から1年 社長が語る「UberEATS」好調の舞台裏 - ITmedia ビジネスオンライン 

 注文から配達の流れとしては、以下の通り。

  1. 注文者が注文する
  2. レストランに注文が入る
  3. レストランが良いタイミングで配達員を呼ぶ
  4. 配達員へと配達依頼の通知が届く
  5. 配達依頼を受諾したらレストランへと取りに行く
  6. 配達員はレストランで注文を受け取り、注文者の元へと運ぶ

仕組みとしてポイントに感じたのは「4. 配達員へと配達依頼の通知が届く」の工程でさらに調べてみると、以下のような仕組みだった。

  • 配達員は専用アプリログインする
  • ログインすると「オンライン」「オフライン」を設定できる
  • 「オンライン」にすると配達依頼を受け取ることができる
  • 「オフライン」にすると配達依頼は来ない

したがって、「自分で配達をするかしないかをコントロールすることができる」仕組みになっている。

また、「3. レストランが良いタイミングで配達員を呼ぶ」に関しては、オンラインになっている配達員の中からUber eatsのアルゴリズムにより最適な配達員へと配達依頼の通知が届くような仕組みになっているらしい。そのアルゴリズムのパラメータは不明だが、基本的には以下ではないか。

  • 配達依頼をしたレストランと配達員の距離
  • 配達員の過去実績

まさにUberで培ったGPSを活用したマッチメイキングの技術の技術の粋が投入されているように感じた。

 

配達員はどのくらいもらえるのか

丁寧に支払い金額に関してUber eatsのホームページに乗っていた。

明細に関して確認をすると以下の通り。

 

(1) 基本料金 

基本料金は以下の3つに分化される。

  • 受け取り料金:300円
  • 受け渡し料金:170円
  • 距離料金:150円(1kmあたり)

なので、1回の配達を行うと以下の通り。(距離は1kmとする)

  • 620円=300円(受け取り料金)+170円(受け渡し料金)+150円(距離料金)

 

(2) ブースト

公式ホームページでは以下のような説明。

配送料に掛け算される倍率で、曜日や時間や地域によって異なる倍率が設定されます。

出典:お支払いの仕組み (Uber パートナー向け) | Uber

つまり、需給バランスによって基本料金を割り増しますよということ。基本的には需要過多のケースを想定しているのではないかと思われ、需要の高い時間・地域にブーストで傾斜をかけることで、供給力を調達している。Uberでいうところのピーク料金と同じ発想で、非常に上手い。

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出典:東京の配達パートナー向けの情報 | Uber

 

(3) 特別キャンペーン[不定期]

その時々で色々と特別キャンペーンがあるらしい。特別キャンペーンではないがUber eatsではインセンティブも充実しており、以下に詳細が記述されている。

インセンティブの利用規約 | Uber

 

(4) サービス手数料 35%

サービス手数料=基本料金×35% ということみたい。なので、1回の配達(距離1km)で、ブーストの倍率1.5倍である場合は、配達員の稼ぎは以下の通りとなる。

  • 基本料金:620円=300円(受け取り料金)+170円(受け渡し料金)+150円(距離料金)
  • ブースト料金:310円=620円(基本料金)×0.5(ブースト倍率)
  • サービス手数料:217円=620円(基本料金)×0.35(サービス手数料率)
  • 配達員の稼ぎ:713円=930円(基本料金+ブースト料金)ー217円(サービス手数料)

1回の配達がどのくらいの時間がかかるかは分からないが、恐らく1時間もかからないはずなので、時給換算したら1,000円は超えてきそうで意外と効率良く稼げそうだと感じた。

 

どのように配達員を集めたのか

流動的ではあるが、最低保証時給が存在するらしい。しかし、「配達をしなくても、オンラインで配達依頼を待機していれば時給が保証される」というわけではなく、何かしらの条件があり、その条件を満たす限りにおいて時給保証がされる。

この最低保証時給に関しては、サービス立ち上げや新エリア展開時に発動されるケースが多いらしく、慢性的な需要過多である場合にしか配達員は期待できない。

その他にも、配達員紹介などのインセンティブプログラムがあり、こちらも多くの場合は慢性的な需要過多の際に、発動されるケースが多いのではないか。

したがって、配達員の集め方はUberにおけるドライバーの集め方と同じような手法を用いていると言える。 

 

Uber eatsの1回あたりの配達員からの粗利は200円〜300円くらいと推定。モデル的にはGMVを伸ばしていくことがポイントで、今後も新エリアへの展開を進めて行くものと考えられる。調査はできていないが、レストランからもUber eatsはサービス手数料を受け取っているのではないか。この点は今度調査を行う。