パーキングのシェアエコ・akippaは需要過多につき「駐車場数」をいかに増やすかがポイント
パーキングのマーケットプレイス・akippa
akippaはパーキングのシェアエコ×マーケットプレイスのプロダクト。以下のユーザーからマーケットプレイスは成り立っている。
- 駐車場を借りたい人
- 駐車場を貸したい人
借りたい人としてのメリットは「早い」「安い」であり、前者の「早い」という点では、決済はスマホでできること、そして後者の「安い」という点では、駐車場の維持管理費や精算機などの設備費用が低いまたは無いため、駐車料金が低く設定されている。
参考:駐車場予約サービス「akippa」低価格のカラクリ【F17C-AKP #2】 – 【ICC】INDUSTRY CO-CREATION
akippaの取引構造
駐車場を借りたい人視点で、取引構造を分解すると以下の通り。
- 駐車場を探す
- 駐車場を予約する
- 駐車場を利用する
体験としてはシンプル。実際に掲出されている駐車場では以下のような情報が画一的に確認をすることができる。
- 対応車種
- サイズ
- 場所
- 金額
- 営業時間
- 特徴(時間制限あり、オンライン決済、再入庫不可、など)
この手のマーケットプレイスであると、供給されるモノ(今回でいうと駐車場)は様々であり、需要者側もどちらかというと能動的に探す姿勢があるので、体験としては可能な限り駐車場情報を細かく明記し、かつその情報でフィルタリングして探すことができるような体験が良さそう。
また、予約・利用の体験において、面倒な決済が事前決済することができるのは、小さい部分ではあるが、取引コストを押し下げている部分であると思われる。
一方、駐車場は必ずしも、分かりやすい場所にあるわけでは無いので、場合によっては駐車場を見つけるまでの取引コストが非常に高くなり、挙げ句の果てには見つけられないといった体験もありえそう。
マネタイズは強気の手数料:50%
マネタイズは手数料で貸出料金のうち50%。
貸出料金のうち、50%をオーナーさまへお支払いいたします。
ただし、キャンペーンやサービスの内容によっては変動する場合がございますのでご注意ください。
印象としては相当手数料取っているな、という印象ではあるが、考えてみたら妥当なのかもしれない。
シェアエコは休眠資産の活用であり、休眠資産と一口に言っても、Airbnbにようなアコモデーション、Uberのようなタクシー、クラウドソーシングのような役務提供など様々。
その中でも、akippaの「駐車場」という休眠資産は、駐車場を貸したい人が貸す際に必要となる取引コストが低い。したがって、運営側としても手数料は50%という高めの設定をしたのではないか。
例えば、先日上場した世界的なクラウドソーシング大手・upworkが活用している休眠資産は役務提供であり、フリーランサーがその役務を提供している。フリーランサーの役務提供は取引コストが高いため、運営側としてもakippaのような手数料50%という強きの設定はできないのでは無いか。
参考:クラウドソーシング最大手の「アップワーク」がIPO(新規株式公開)! 「フリーランスのUber」と呼ばれる注目企業のビジネスモデルや業績を解説!|世界投資へのパスポート|ザイ・オンライン
事業変数は供給側の変数・駐車場数にあり
マーケットプレイス型のプロダクトであるので、KGIはGMVで捉えて問題ないと思う。手数料モデルなので、GMVを伸ばしていくことが至上命題。
まず、GMVは、貸出利用数×貸出料金単価に分解することができる。「貸出料金単価」に関しては、そもそもとして既存の駐車場よりも安いことをメリットとして押し出しているので、積極的に伸ばしていくことは難しく、ポイントは貸出数になるのではないか。
次に、貸出利用数は、貸出利用UU数×UUあたり貸出利用数に分解することができる。この2つの変数に関しては、いづれも運営側でコントール可能な変数であり、この2点に関して掘り下げる。
UUあたり貸出利用数はどのように伸ばす
UUあたり貸出利用数を噛み砕くと、駐車場を借りたい人が1人あたり何回貸出を利用するか、である。
したがって、リテンションのKPIが絡んできており、ポイントとしては例に漏れず以下ではないか。
- 初回体験をどのようにさせるか
- 1回目から2回目の体験をどのようにさせるか
憶測にはなるが、akippaのサービスは1回体験をしてしまうと、その便利さから普通の駐車場にはもう戻れない、といったプロダクトとしての強みがある様に感じる。なぜなら、従来よりも取引コストが圧倒的に低いので。
そのため、いかに初回体験をさせるかが論点であり、この点に関してはUberのようなリファラルキャンペーンや初回体験無料キャンペーンが非常に有効であると思われる。
貸出利用UU数をいかに伸ばすか
貸出利用UU数を噛み砕くと、駐車場を借りたい人が貸出利用をする人数、である。貸出利用UU数は新規ユーザーと継続ユーザーに分解することはできる。
継続ユーザーの1ヶ月後、3ヶ月後、半年後のリテンションレートは高そうである。また、新規ユーザーの獲得に関しても、顕在的なニーズであるためSEMは効きそうであり、Webマーケティングでクリティカルマスを集めることができそう。
ポイントは駐車場数
駐車場を借りたい人視点でのKPI分解を行ったところ、借りたい人よりも貸したい人を集めることの方が難しそうであるとことに気がした。
したがって、このマーケットプレイスにおいては、流動性の確保のためには駐車場数を担保することが重要であるように思う。
実際にakippaが紹介されている記事には以下のような情報があった。
- 2018年4月時点で会員数は70万人以上
- 累積の駐車場拠点数も2万箇所を超えている
- 特に1年で倍以上になったという拠点数については、個人のものだけでなく大手企業が提供する駐車場が増加傾向
- コインパーキングやSUUMO月極駐車場を提供するリクルートなど、同業他者との連携も積極的に行ってきた
- 前回のラウンド(2017年5月)以降はとにかく駐車場を増やすことにフォーカス
- 需要に対して供給が全く追いついていない状況
- 供給不足の打開策としてakippaが着手したのが、これまで導入が難しかったゲート式駐車場の開拓
- ARPU(アープ / ユーザー1人あたりの平均売上高)を増やす1番の方法は駐車場を増やすこと
出典:駐車場シェアを超えたモビリティプラットフォーム目指す「akippa」、住商らから8.1億円を調達 | TechCrunch Japan
したがって、GMVの見方としては、貸出利用数×貸出料金単価ではなく、駐車場数×駐車場単価であり、現在は需要過多の状況であるとすると、駐車場数を増やしても駐車場単価は下がるというトレードオフは起きず、駐車場数を増やせば増やす程、GMVが伸び、結果として手数料による粗利も増えていく。
また、駐車場数を増やすための打ち手としてはシェアゲートというテクノロジーであり、かなりワクワクする内容。
その他にもトヨタとの業務提携で、ナビにakippaの駐車場が表示されるなど、かなり本質的なアライアンスも行っている。確かに駐車場数を増やしていけば、GMVも伸びそうであり、今後の成長が非常に楽しみ。
フリーランス美容師と美容院の面貸しマーケットプレイス・MIRRENTAの勝手な考察
美容師への面貸しマーケットプレイス・MIRRENTA
まず、面貸しとは、美容院で空いている席(及び設備)を貸し出すことを業界では面貸しと言う。その面貸しのマーケットプレイスを展開しているのがMIRRENTA。以下のユーザーから成り立っている。
- 美容師:自分で店舗を構えていないので、カットする場所を貸して欲しい
- 美容院:席が空いているので見栄え的にも売り上げて的にも空席を無くした
美容師にとってのメリットとしては以下の通り。
- 自分で店舗を持つ必要がない
- 自分の好きな時間に働くことができる
一方で、美容院へのメリットとしては以下の通り。
- 空席を埋めることで売り上げへの寄与
- 店舗に活気があるように見える
まさに、フリーランス美容師といった様相で、美容師の業界にもシェアリングエコノミーが浸透してきているんだなと感じる。
対象が店舗を持たない美容師となるので、市場規模としてはそこまで大きくないのかもしれないが、面白いので、掘り下げて調べてみる。
MIRRENTAの取引構造
まず、取引構造の整理からで、以下の通り。
- 美容院または美容師から面貸しのリクエストを送る
- 金額などの条件をすり合わせ、契約を取り交す
- 美容師が美容院へ行き、カットする
- 美容師は利用料、美容院はマッチング料を支払う
利用料やマッチング料に関しては、マネタイズの部分なので後述。
「2.金額などの条件をすり合わせ、契約を取り交す」という取引に必要なコストをいかに下げることができるかがポイントだと感じた。
すり合わせにあたり以下が面倒臭そう。
- 材料をどこまで使っていいのか
- 使うにせよ、何がどこに置いてあるのか、誰が教えてくれるのか
- 店舗にある機材で十分に対応をすることができるのか
- 金額はどのように折り合いをつけて決めるのか
そう考えると、このマーケットプレイスはAirbnb型。つまり扱っているモノ=店舗は画一的ではなく、店舗の雰囲気や立地、提供可能な材料など、オリジナリティがある。
そのため、美容師は可能な限り自分の希望に添う店舗を探したいので、検索性がポイントになってくる。例えば、「貸出可能な材料のフィルタリング」「利用料の割合でフィルタリング」など。現状としては、MIRRENTAでは検索性に関してそこまで注力をしている感じではなさそう。
また、利用料に関しては、店舗ごとに歩合制や月額制など、フォーマットが様々で美容師は混乱をしてしまいそう。 かつ美容院側の取り分も各々が決めている状態。
この点に関しては、価格設定の権利はオリジナリティがあるマーケットプレイスの場合、売り手(今回でいうと美容院)が握っていても良いと思うが、「どのくらいが美容院の取り分とするか」は運営側で定めた方がいいのではないかと思う。(例:制約金額の20%を手数料として事務局に納める等)
MIRRENTAは価値を「場」ではなく「出会い自体」に設定
プランと料金に関しては、いくつかあるみたいだけど、このマーケットプレイスというところで中心的なマネタイズとしては、 美容院に対するマッチング費用:20,000円/1件となっている。
一瞬「美容院に対して成果報酬で課金するのか!」と驚いた。多くのマーケットプレイスでは、成約金額のN%を手数料としているところが多いので。その考察を以下で行う。
実態としては人材紹介モデルに近い
あくまで想像でしかないが、美容院に対する課金をしている理由は以下ではないか。
- 上記のように美容院側に価格設定の権利をかなり与えている
- 美容院側は美容師からの儲けを最大化しようとする
- 美容院はある程度のまとまった儲けを美容師から得る
- そのマッチングに対して事務局は美容院へ課金する
以上から、MIRRENTAは価値のポイントを「MIRRENTAという場」ではなく「美容院と美容師の出会自体」に置いているということが分かる。
具体的には、MIRRENTAという場に価値を置いているのであれば、恐らく成約金額のN%といったマネタイズが妥当。しかし、そうではなく出会いに対して価値を置いているので、マッチング費用という形でマネタイズを図っている。ということで驚きが解消された気がする。
したがって、モデルとしては人材紹介に近いかもしれない。マッチングしたらいくらです、といったモデルであるという意味で。
ネットワーク効果を引き起こすことは難しそう
確かに、このモデルであれば、マーケットプレイスであるあるな直接取引を避けることができる。美容院と美容師のマーケットプレイスはアメリカの家事代行マーケットプレイスとして名を馳せたHomejoyと同じように、売り手と買い手の距離が近いために、直接取引の温床となりやすい。
しかし、マーケットプレイスの最大の旨味でもあるネットワーク効果の可能性が無くなってしまっているのは、もったいないように感じた。
「出会い自体」に価値を置く場合、ユーザー(特に美容師)としては1回出会ってしまったら、サービスに戻ってくる動機や理由が無くなってしまう。そうなると、マーケット(MIRRENTA)に「厚み」は生まれなくなり、常にユーザー(特に美容師)は入れ替わり立ち替わりになる。
もちろん過去の経緯も知らないし、今後の計画も把握はしていないので、分かりかねるが、仮にマーケットプレイスとして機能していくには以下がポイントになりそうだと感じた。
- 価値を「場」そのものに設定する
- 売り手(面貸ししてくれる美容院)を集める
- マネタイズは成約金額のN%を手数料として受け取るようにする
- 美容師の細かな検索ニーズに応えるために、検索性を抜群にする
美容師・美容院の業界でIT的な側面でのインパクトのあるニュースを聞いたことがなかったので、掘り下げて調査してみた。美容院に限らず「空席」は貴重な遊休資産。どの業界でも思考をするにあたって良い観点となりそう。
マーケットプレイスの取引コストとは?取引コストを下げていると思った事例
取引コストとは
取引コストとは、価格以外にかかるコストのこと。例えば、お菓子をコンビニ行った際に、お菓子自体には「お金」というコストがかかるが、それ以外にも以下のようなコストがかかっており、これらが取引コスト。
- コンビニまで行く時間的コスト
- 目当てのお菓子を探すコスト
- 財布を出して会計を済ませるコスト
- お菓子を持って家にまで帰るコスト
マーケットプレイスに限らず、多くのビジネスは取引コストを従来よりも爆発的に下げることで、成功をしてきた。
例えば、Googleであればキーワードを打ち込むだけでお目当ての情報を見つけることができるようになったし、Amazonであればあらゆる商品がオンラインで発見・購入できるようになった。
マーケットプレイス型のビジネスであると基本的にはモノは持っておらず、あるのはネットワークだけ。前提として、そのネットワークの存在が従来よりも取引コストを押し下げるようになっていないといけないし、それに付随する体験がまた取引コストを最小化するようなものになっていないといけない。
ネットワークの存在自体が取引コストを下げるようなもの
ティンダーが分かりやすい例。ティンダーの場合、他のデーティングアプリと同様にオンラインで彼氏・彼女候補を見つけることができる。
従来であると、飲み会に行ったり、クラブに行ったり、はたまたナンパをしたりと、取引コストが非常に高かったが、それをマーケットプレイスという形でネットワーク化することで、ティンダーという存在自体が「彼氏・彼女候補を見つける」ための取引コストを押し下げた。
付随する体験の取引コストを最小化
ティンダーと言えば、顔写真を見て「あり」「なし」にスワイプで選り分ける、あのUXが非常に印象的。存在自体が取引コストを押し下げはするものの、その体験もまた取引コストが小さくないとユーザーは継続しないし、競合にも勝てない。
当時はデーティングアプリと言えば、
- プロフィールを真面目に書く
- お目当ての女性を探す
- お目当ての女性に丁寧に連絡する
- 返信が来るのを気長に待つ
- 仮にOKだったらデートができる
といった体験になっており、取引コストが高かった。それをティンダーの場合は、
- 「あり」「なし」をスワイプで選り分けるだけ
- 「あり」同士でマッチングしたら、デートに行ける
と(工程をかなり端折ったが)従来のデーティングアプリよりも体験という側面で取引コストを最小化している。
メルカリの出品UX
最近(2018年9月現在)、メルカリがCMでやっている「バーコード出品チャレンジ」、これはまさに出品者の取引コストを押し下げる施策。
通常の出品であると、自分で商品名や詳細を打ち込んだり、カテゴリを選んだり…と確かに手間ではあった。
しかし、バーコード出品によりバーコードから商品名やカテゴリ、商品の詳細まで勝手に入力をしてくれ、取引コストを大幅に下げることができている例だと思う。
また、メルカリの体験で面倒臭いと思うポイントとしては商品の梱包や郵送。この点に関しては、出品代行という形で取りに来て渡すだけ、という体験を提供しているトリクルというサービスがあるので、これも取引コストを最小化するようなプロダクト。
Airbnbの宿泊先探索UX
もはや当たり前ではあるが、何かを探す際にはフィルタリングできればできるほど、自分好みのものを探すことができるようなサービスが世の中には多い。
Airbnbもまさにで、扱っているものは宿泊先で、ゲストとしては可能な限り自分の要望にマッチするような宿泊先を見つけたい。
その上で、フィルタリング機能が以下のように充実している。
- 日付
- 地域
- 人数
- 部屋の対応
- 料金
- ベットの数
- スーパーホストか否か
- バリアフリー設備
- アメニティ
- 建物タイプ
- ホスト可能言語
この他にもいくつかあるが、これだけあればマッチする宿泊先が見つかりそう。ここまでフィルタリングできるというのは、ゲストに「細かに宿泊先の条件を入力する」という取引コストを払ってもらっているからであり、そこは表裏一体なのかもしれない。
ただ、定石として、お金を受け取る側の取引コストは、払う側と比較してある程度高くなってしまっても良いのかも。
その他取引コストを押し下げそうなプロダクト
マーケットプレイスに限らず、従来よりも取引コストを下げそうだなと思ったプロダクト。
カオナビ・TALENT FIDER
カオナビと言えばタレントマネジメントのSaaSだが、カオナビ内で蓄積された人事データを元に「〇〇さんみたいな人がほしい!」とすることで、それがそのまま募集要項に反映されるのがTALENT FINDER。人材募集時に手間な募集要項の作成の取引コストを下げている事例だと思う。
クラウド人材管理ツール「カオナビ」が人材紹介会社の求職者データベースと連携した新機能を発表 | TechCrunch Japan
リクポ・requpo
美容院の予約といえば、自分で美容院を探して、日時をいちいち調整してやっと予約ができる、と手間がかかるイメージ。しかし、requpoではユーザーの要望(日時や金額、希望メニュー等)から最適な美容師がオファーをしてくれるプロダクトで「自分で予約をしない」というありそうで無かった形のプロダクト。
“検索しない”美容室予約アプリ「requpo」運営元が8000万円の資金調達、ビジネスモデル特許も | TechCrunch Japan
取引コストの低下がクリティカルマス到達にも繋がる
クリティカルマス到達のためには、
- 需要に応える十分な供給
- ネットワークへの参加による価値 > 参加によるコスト
が必要であり、参加によるコストを可能な限り押し下げるためには、取引コストを押し下げていく必要がある。
例えば、買い物代行マーケットプレイスであるインスタカートでは買い物をする人の取引コストを下げるために、
- 店内のどこに商品が置いてあるのかが分かるマップ
- インスタカート専用のレジ
など、素早く買い物を済ませることができるような仕組みになっている。
仮に、これらの仕組みが無かったとしたら、インスタカートで買い物代行することによって得られる価値(金銭的報酬)よりもコスト(ユーザー登録、買い物)が大きくなってしまっていた可能性がある。
マーケットプレイスにおいては、売り手よりも買い手を集めることの方がしばしば難しい場合が多い。
しかし、売り手の取引コストを可能な限り低くすることで、マーケットプレイスへの供給量を最大化することができ、運営するマーケットプレイスに「在庫」という概念が存在しないのであれば、需要を満たすための供給としてストックをすることができる。