C2Cマーケットプレイスの代表格だったチケットキャンプ、どんなマーケットプレイスだったのか少し振り返り
チケットキャンプとは
ミクシィの子会社であるフンザによって運営されていたチケット売買のマーケットプレイス。現在は色々あって2018年5月末に閉鎖している。
マーケットプレイスとしての仕組み自体は「チケット」を媒介として以下のユーザーが存在していた。
- チケットを売りたい人(売り手)
- チケットを買いたい人(買い手)
チケットキャンプのマネタイズや転売目的のチケット販売に関する問題などを掘り下げて考えてみたい。
マネタイズは取引手数料と決済システム料
マネタイズは売り手と買い手から手数料をもらっていたらしい。それぞれで切り分けて見ていく。
売り手からの取引手数料
以下のパターンがあるらしい。
- チケットの代金が8,000円以下:一律690円
- チケットの代金が8,001円以上:チケット代金の8.64%
金額の多寡で手数料の受け取り方が違うにせよ、最低でも手数料率8%強以上は担保されていた。
買い手から取引手数料と決済システム料
まず、取引手数料に関しては、買い手側は最終的には「無料」になったそうで、元々は以下の通り。
- チケットの代金が8,000円以下:一律400円
- チケットの代金が8,001円以上:チケット代金の5%
次に、決済システム料が買い手側にかかってしまうみたいで、以下の通り。
- チケット代金が〜10,000円:324円
- チケット代金が10,001円〜20,000円:540円
- チケット代金が20,001円〜:3.24%
1回の取引で最低でも1,000円以上の収益
以上から、
- 売り手からは最低でも取引手数料690円
- 買い手からは最低でも決済システム料324円
を事務局が受け取ることができるので、1回の取引で事務局は1,000円以上の収益を上げることができたみたい。
チケットキャンプのMAU×ARPU
2017年5月10日に公開されたミクシィ社の決算資料では、チケットキャンプに関して、以下の数値が公開されていた。
- 会員登録数は累積300万人を突破(2017年3月16日時点)
- 月次GMVは58億(2016年12月時点)
したがって、MAUに関しては、なんとも分からないのだが、仮に買い手側のMAUが100万MAUあるとしたら、ARPUは5,800円程度になる。
個人的には「意外と高い」という感想で、チケット購入UU数だけでなく、UUあたりチケット購入数(1人あたりがチケットを購入する回数) も高そうで、恐らく1回/月次ではなく、2回〜3回/月次くらいありそうなARPUだなと感じた次第。
また、MAU×ARPUの話ではないが官報によると当期純利益は17億円強出ていた模様。
売り手側のモラルハザードを防止できず
最終的に、チケットキャンプは「閉鎖」という形に追い込まれたが、閉鎖以前も議論を引き起こしていた、売り手側のモラルハザード「転売目的のチケッチ販売」に関して考えて見たいと思う。
マーケットプレイスのモラルは事務局が守る
マーケットプレイスでは、マーケットデザインという考え方があり、つまり市場の設計を行うということ。いくつか要素があるのだが、そのうちの1つに「安全性」がある。
その他にもマーケットプレイスにはガイドラインが必要で、ガイドラインが無いと、割れ窓理論的にどんどんと治安が悪くなり、マーケットプレイスそのものの質が下がっていく。
したがって、マーケットプレイスにおいて、いくらエンドユーザー間の責任において取引がなされているとは言え、事務局がマーケットプレイスにおけるモラルを厳しく取り締まる必要がある。
本来のマーケットプレイスの形から逸脱
チケットのC2Cマーケットプレイスで起きたモラルハザードとしては売り手が転売目的にチケットを買い占め、マーケットプレイスで高値で売ること。チケットを買い占めるにも手元にある程度のキャッシュが無いと実行ができないため、個人単位ではなく組織というある程度大きな単位で行われていたと推測できる。
本来的に、チケットキャンプは「行くはずのライブやイベントに行けなくなってしまった場合のチケットの売り先」という役割を果たすべきマーケットプレイスだったが、実態としてはそうで無くなってしまっていた。
このマーケットプレイスという範囲においては、高値の転売でも買い手側の需要が強かったため、市場原理として売り手が買い手の足元を見る形で成り立ってしまっていた。したがって、ある意味では経済的には合理的な現象であると捉えることができる。
転売目的のチケッチ販売を防ぐには
本人認証を目的とした電子チケットの推進や音楽団代によるチケット売買のマーケットプレイス・チケトレなどが対策として講じられている。このチケトレでは、売買時の価格はあくまで定価であり、売り手側の転売を目的とした買い占めインセンティブが薄れるようにされている。
一方で、問題自体は根深く、根本的な解決には至っていないため、転売目的にチケット買い占め及び高額な販売は根絶できない、という声もある。
現在ではC2Cの大手チケット売買マーケットプレイスはチケット流通センター。売り手に対しては 本人確認を必須とすることで、転売目的に販売を防ぐ意図か。
このように、ユーザーへの取引コストを多少高めてしまったとしても、マーケットプレイス自体がモラルを保ち、そのための仕組みを作る等、地道に変化させていくしかないのかも。
UberEATSの仕組み、配達員はアプリで配達可否をオプトイン/アウト
フードデリバリー・Uber eats
ライドシェアのマーケットプレイスを展開しているUberのフードデリバリーサービス・Uber ears。日本上陸から2年が経過し、順調に事業としても伸張していることが伺える。
Uber eatsはシェアエコ型のマーケットプレイスで、大まかに以下のユーザーから成り立っている。
- 需要者:フードデリバリーの注文者
- 供給者:レストランと配達パートナー
今まで自分の場合、あくまで需要者の側面しかUBER eatsを見ていなかったが、「よくもまぁ注文するタイミングにちょうどよく配達する人がいるもんだな」と思ったので、供給者側の仕組みを疑問に思った順に調べてみたいと思う。
なぜ注文時にちょうどよく配達員がいるのか
「配達員が多くいるから」と言ってしまえばそれまでだが、1年前時点では配達員は5,000人程度いたそうなので、今ではエリアも拡大し、もっと多くいるのではないか。
1000人程度だった配達員の数は、現在は5000人を超えている。
注文から配達の流れとしては、以下の通り。
- 注文者が注文する
- レストランに注文が入る
- レストランが良いタイミングで配達員を呼ぶ
- 配達員へと配達依頼の通知が届く
- 配達依頼を受諾したらレストランへと取りに行く
- 配達員はレストランで注文を受け取り、注文者の元へと運ぶ
仕組みとしてポイントに感じたのは「4. 配達員へと配達依頼の通知が届く」の工程でさらに調べてみると、以下のような仕組みだった。
- 配達員は専用アプリログインする
- ログインすると「オンライン」「オフライン」を設定できる
- 「オンライン」にすると配達依頼を受け取ることができる
- 「オフライン」にすると配達依頼は来ない
したがって、「自分で配達をするかしないかをコントロールすることができる」仕組みになっている。
また、「3. レストランが良いタイミングで配達員を呼ぶ」に関しては、オンラインになっている配達員の中からUber eatsのアルゴリズムにより最適な配達員へと配達依頼の通知が届くような仕組みになっているらしい。そのアルゴリズムのパラメータは不明だが、基本的には以下ではないか。
- 配達依頼をしたレストランと配達員の距離
- 配達員の過去実績
まさにUberで培ったGPSを活用したマッチメイキングの技術の技術の粋が投入されているように感じた。
配達員はどのくらいもらえるのか
丁寧に支払い金額に関してUber eatsのホームページに乗っていた。
- お支払い = (1) 基本料金 × (2) ブースト + (3) 特別キャンペーン[不定期] - (4) サービス手数料 35%
- 出典:お支払いの仕組み (Uber パートナー向け) | Uber
明細に関して確認をすると以下の通り。
(1) 基本料金
基本料金は以下の3つに分化される。
- 受け取り料金:300円
- 受け渡し料金:170円
- 距離料金:150円(1kmあたり)
なので、1回の配達を行うと以下の通り。(距離は1kmとする)
- 620円=300円(受け取り料金)+170円(受け渡し料金)+150円(距離料金)
(2) ブースト
公式ホームページでは以下のような説明。
配送料に掛け算される倍率で、曜日や時間や地域によって異なる倍率が設定されます。
つまり、需給バランスによって基本料金を割り増しますよということ。基本的には需要過多のケースを想定しているのではないかと思われ、需要の高い時間・地域にブーストで傾斜をかけることで、供給力を調達している。Uberでいうところのピーク料金と同じ発想で、非常に上手い。
(3) 特別キャンペーン[不定期]
その時々で色々と特別キャンペーンがあるらしい。特別キャンペーンではないがUber eatsではインセンティブも充実しており、以下に詳細が記述されている。
(4) サービス手数料 35%
サービス手数料=基本料金×35% ということみたい。なので、1回の配達(距離1km)で、ブーストの倍率1.5倍である場合は、配達員の稼ぎは以下の通りとなる。
- 基本料金:620円=300円(受け取り料金)+170円(受け渡し料金)+150円(距離料金)
- ブースト料金:310円=620円(基本料金)×0.5(ブースト倍率)
- サービス手数料:217円=620円(基本料金)×0.35(サービス手数料率)
- 配達員の稼ぎ:713円=930円(基本料金+ブースト料金)ー217円(サービス手数料)
1回の配達がどのくらいの時間がかかるかは分からないが、恐らく1時間もかからないはずなので、時給換算したら1,000円は超えてきそうで意外と効率良く稼げそうだと感じた。
どのように配達員を集めたのか
流動的ではあるが、最低保証時給が存在するらしい。しかし、「配達をしなくても、オンラインで配達依頼を待機していれば時給が保証される」というわけではなく、何かしらの条件があり、その条件を満たす限りにおいて時給保証がされる。
この最低保証時給に関しては、サービス立ち上げや新エリア展開時に発動されるケースが多いらしく、慢性的な需要過多である場合にしか配達員は期待できない。
その他にも、配達員紹介などのインセンティブプログラムがあり、こちらも多くの場合は慢性的な需要過多の際に、発動されるケースが多いのではないか。
したがって、配達員の集め方はUberにおけるドライバーの集め方と同じような手法を用いていると言える。
Uber eatsの1回あたりの配達員からの粗利は200円〜300円くらいと推定。モデル的にはGMVを伸ばしていくことがポイントで、今後も新エリアへの展開を進めて行くものと考えられる。調査はできていないが、レストランからもUber eatsはサービス手数料を受け取っているのではないか。この点は今度調査を行う。
日本ではレアなB2B×シェアエコマーケットプレイス・Ekuipp、グローバルネットワーク効果のポテンシャルを秘めている
精密機器B2Bマーケットプレイス・Ekuipp
Ekuippは精密機器(計測器・測定器)を扱うマーケットプレイスで以下のユーザーから成り立っている。
- 貸主:精密機器を貸し出す企業
- 借主:精密機器を借りたい企業
運営元はAnybleという企業で、Ekuippの創業背景が創業者の実体験に基づくものであり、詳細は以下で紹介されている。
B2Bで「製造業に使うモノ」が当たり前にシェアされる世界を、自分たちが切り開く|Anyble株式会社
日本国内ではB2Bマーケットプレイスと言えば、eマーケットプレイスが真っ先に想起される。しかし、Ekuippに関しては、「使われていない精密機械」という休眠資産を活用したマーケットプレイスであり、eマーケットプレイスとはやや性質が異なる。
したがって、シェアエコ×B2Bマーケットプレイスという位置付けで、Ekuippの取引構造やマネタイズに関して調査をしてみる。
Ekuippの取引構造とマネタイズ
まず最初にEkuippがどのようなプロダクトであるかを整理し、その後に具体的な取引構造、マネタイズについて調べる。
Ekuippでは精密機械のレンタル・売買が可能
上記の通り、精密機械の貸し借りを行うことができるマーケットプレイス。ただ、貸し借りだけではなく、精密機械によっては借主は買取を行うこともできる。
また、精密機械の校正(計器類の狂い・精度を、標準器と比べて正すこと)や修理をEkuippが承っているということで、調子が悪かったり壊れていたりする精密機械も貸し出しをすることができることが特徴。
Ekuippの取引構造はシンプル
取引構造としては、一般的な流れとなっており、以下の通り。
- 貸主が精密機械を貸し出す
- 借主が一覧ページから借りたい精密機械を探す
- 借主はレンタル期間の間、精密機械を使用する
- 借主は貸主にレンタル期間終了後に返却し、対価を支払う
また、受取に関しては、郵送だけではなく、手渡しという方法もあり、マップという探し方もすることができる。その他には、「レンタル期間終了後に返却」という工程が面倒臭そうではあるが、B2Bである場合、ある程度取引コストが高くとも乗り越えてくれるのかもしれない。
Ekuippのマネタイズは手数料
マネタイズは成約金額の15%を貸主から徴収。
手数料は出品者様の売上金額、またはレンタル料金から15%を徴収致します。
それ以外のマネタイズに関してはまだ行なっていないように思われる。
クリティカルマスへの到達は貸主の集客
領域的にはかなりニッチであり、唯一無二のマーケットプレイスになれるポテンシャルを多分に秘めていると思う。
マーケットプレイスの最初のお仕事であるクリティカルマスへの到達に向けては、最初に貸主を集客することが先決ではないかと思われ、理由は以下の通り。
- 性質上、精密機械を出しておくだけであれば、貸主としては デメリットはない
- 借主はマーケットプレイスのレンタル/売却可能の精密機械が無いと参加するメリットがない
また、借主に関しては「借りたい!」という顕在的なニーズがあるため、SEMで対策をしやすいのでは無いか。SEO対策をするとしたら、「精密機械名 × レンタル/貸し出し (×地域名) 」と言ったところか。プロダクトを窺うに、まだSEO対策は行なっていないように思われる。
それでは「具体的に貸主をどのように集めるか?」という課題に関しては、正直なところ業界事情も分からないので、「泥臭く1つ1つ企業に営業していく」という以外にアイディアが浮かばない。ただ、ニッチな市場ではあるので、口コミによるリファラルの波及は大いにあり得るように感じるし、業界新聞に告知するだけでも効果があるように感じた。
グローバルネットワーク効果に期待
ネットワーク効果には以下の2種類があると言われている。
- global network effects
- root density network effects
出典:Four Questions Every Marketplace Startup Should Be Able to Answer
供給者による供給物(Ekuippであれば、貸主の精密機械)が地域性を保持するものであれば、特定の地域で供給者が多くなればなるほど需要者の利便性は向上するし、需要者が多くなればなるほど供給者の利便性は向上する。具体的な例としては、TaskRabbitなどがある。
一方でグローバルネットワーク効果の代表例としてはAirbnb。Airbnb自体が旅行・宿泊といったテーマを内包しており、本質的にグローバルネットワーク効果を発揮する下地がある。
では、Ekuippはどうであるかというと、グローバルネットワーク効果を発揮できるポテンシャルがあるのでは無いかと考えている。国内における需給バランスだけでなく、視点を海外にまで広げると、「日本製品である」というだけで需要が大きい可能性はあるのではないか。
実際に、Ekuippと同じくB2BマーケットプレイスであるALLSTOCKERは東南アジアでの需要が大きいらしく、既に展開をしている。ALLSTOCKERの場合はレンタルではなく売買であり、Ekuippも東南アジアなどの海外展開をする際には、基本的には売買になると思う。
したがって、借主からの需要は国内外問わずありそうなので、いかに貸主を集めることができるかが論点になってくる。