私的マーケットプレイス研究所

マーケットプレイスビジネスについて学んだことを書き留める。

マーケットプレイスで効率的なマッチング実現のために、厚み・混雑・信用がキーワード

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マーケットプレイスがにおけるマッチング

マッチングはマーケットプレイスのモデルであると避けることができないテーマ。

「マッチング」と聞くと想起するのは、AさんとBさんが結びつく、みたいなイメージで、その結びつき方もどちらが一方が「嫌だなあ」と思っているわけではなく、お互いが肯定的に捉えて、結びついているのではないかと思う。

したがって、マッチングの肝としては、

  • Aさんが、Bさんを選んでいる
  • だけではなく、BさんもまたAさんを選んでいる
  • つまり、AさんもBさんに選ばれる必要がある

といった具合に、欲求の二重一致(ダブルオプトインが必要であるということ。

そう考えると、お互いがお互いを選び合うというのは、なんだかすごいことだし、ダブルオプトインである以上、互いの「肯定」という取引プロセスがマーケットプレイスのプロダクトには必要であり、その取引プロセスにかかるコストをいかに下げることができるか、がポイントになりそう。

代表例としてはTinderで、このダブルオプトインのプロセスをスワイプという体験であっという間にコストを下げて話題になった。

 

市場の設計=マーケットデザイン

色々参考にしたのはこの本。

Who Gets What(フー・ゲッツ・ホワット) ―マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学

ノーベル経済学賞受賞者のロス氏が執筆していて、社会の実例を用いてマッチングを科学的に捉えていて面白い。

社会の実例というと、臓器提供、学校選択などで、どれもある意味"市場"として捉えた際に、論点となるのは以下の3つであると読んで感じた。

  • 市場の厚み
  • 市場の混雑
  • 市場の信用

そして、これらの論点を盛り込みながら市場を設計することをマーケットデザインと呼び、市場における効率的なマッチングの実現を意図している。

 

市場の厚みとは

市場の厚みとは、多くの売り手が多くの買い手に、多くの買い手に多くの売り手にアクセスすることができること。 

メルカリを想起するとわかりやすく、メルカリという市場には以下のユーザーが存在している。

  • 自分の中古品を売りたい出品者
  • 安く中古品を買いたい買いて

一般的に、売り手としては、売れる相手(買い手)が多い方が良いし、買い手としては、選択肢(買い手の商品)が多ければ多い方が良い。

もちろん、厚みは量の話だけではなく、質の話もあり、売り手と買い手のアカウントがしっかりと生きている必要がある。

多くの生きているアカウントが存在し、互いが互いにアクセスできる市場を"厚み"があると呼んでいて、これがいわゆる流動性の確保、クリティカルマスへの到達ということだと思う。

 

市場の混雑とは

市場の厚みを獲得した市場がハマりやすいのは、 市場の混雑。

上記で挙げたTinderのようなデーティングアプリはわかりやすい。特に何も設計がされていないと以下のような事象が起きる。

  • 美男美女にメッセージが集まる(混雑)
  • 美男美女は数あるメッセージの中から一部しか返信しない
  • メッセージを送ったその他大勢は無視をされてしまう
  • 無視されたその他大勢はアプリを使わなくなる
  • アプリを使わなくなった結果、その他のマッチング機会を損なう

何を言いたいかというと、本来可能性があったマッチング機会が市場の混雑によって失ってしまってしまうということ。

この混雑の解消を上手く解消したのがUberAirbnbで、スマホが混雑の解消に一役買っている。スマホの効能としては情報の更新性が高いことであり、PCよりも早く情報の更新(メッセージの返信、気になる宿の空き状況、空きタクシーの状況、等)がなされるため、スピードがある。

そのため、混雑の解消の1つとしては取引のスピードを上げることがある。その他の方法としては、ユーザー1人1人に見せる情報を変える、例えばパーソナライズはその一環としてある。

 

市場の信用とは

市場の信用とは、ユーザーから「この市場であれば問題なく取引を行うことができる」と信用してもらうこと。

信用は安全性と信頼性の2つに分解することができる。

安全性は、例えば詐欺に遭遇しない、MLMに巻き込まれないような設計が事務局によってなされていること。

一方で信頼性は、例えば出品されている商品の情報に誤りが無く正確である、情報の精度の高さがあることである。

当たり前のように聞こえるかもしれないが意外と実現することは難しい。信頼性という観点では、市場に信頼性のある情報が蓄積されればされるほど、市場の厚みが増し、その結果適切なマッチングが(情報量が多いので)行われることになる、まさにベースと言っても過言ではない部分。

 

 以上、マーケットデザインについて。特に市場の混雑については非常に難易度が高い。解決するためにはそれぞれの市場に応じた独自の工夫が必要だし、その工夫ができないと、たとえ厚みを獲得したとしても、効率的なマッチングが行われないため、スケールしなくなってしまう。マーケットプレイスにとっては必ず乗り越えるべき壁と言えるのではないか。

パーキングのシェアエコ・akippaは需要過多につき「駐車場数」をいかに増やすかがポイント

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パーキングのマーケットプレイス・akippa

akippaはパーキングのシェアエコ×マーケットプレイスのプロダクト。以下のユーザーからマーケットプレイスは成り立っている。

  • 駐車場を借りたい人
  • 駐車場を貸したい人

借りたい人としてのメリットは「早い」「安い」であり、前者の「早い」という点では、決済はスマホでできること、そして後者の「安い」という点では、駐車場の維持管理費や精算機などの設備費用が低いまたは無いため、駐車料金が低く設定されている。

参考:駐車場予約サービス「akippa」低価格のカラクリ【F17C-AKP #2】 – 【ICC】INDUSTRY CO-CREATION

 

akippaの取引構造

駐車場を借りたい人視点で、取引構造を分解すると以下の通り。

  1. 駐車場を探す
  2. 駐車場を予約する
  3. 駐車場を利用する

体験としてはシンプル。実際に掲出されている駐車場では以下のような情報が画一的に確認をすることができる。

  • 対応車種
  • サイズ
  • 場所
  • 金額
  • 営業時間
  • 特徴(時間制限あり、オンライン決済、再入庫不可、など)

この手のマーケットプレイスであると、供給されるモノ(今回でいうと駐車場)は様々であり、需要者側もどちらかというと能動的に探す姿勢があるので、体験としては可能な限り駐車場情報を細かく明記し、かつその情報でフィルタリングして探すことができるような体験が良さそう。

また、予約・利用の体験において、面倒な決済が事前決済することができるのは、小さい部分ではあるが、取引コストを押し下げている部分であると思われる。

一方、駐車場は必ずしも、分かりやすい場所にあるわけでは無いので、場合によっては駐車場を見つけるまでの取引コストが非常に高くなり、挙げ句の果てには見つけられないといった体験もありえそう。

 

マネタイズは強気の手数料:50%

マネタイズは手数料で貸出料金のうち50%。

貸出料金のうち、50%をオーナーさまへお支払いいたします。
ただし、キャンペーンやサービスの内容によっては変動する場合がございますのでご注意ください。

 

出典:貸出料金のうちどれくらいを報酬として受け取れますか?

印象としては相当手数料取っているな、という印象ではあるが、考えてみたら妥当なのかもしれない。

シェアエコは休眠資産の活用であり、休眠資産と一口に言っても、AirbnbにようなアコモデーションUberのようなタクシー、クラウドソーシングのような役務提供など様々。

その中でも、akippaの「駐車場」という休眠資産は、駐車場を貸したい人が貸す際に必要となる取引コストが低い。したがって、運営側としても手数料は50%という高めの設定をしたのではないか。

例えば、先日上場した世界的なクラウドソーシング大手・upworkが活用している休眠資産は役務提供であり、フリーランサーがその役務を提供している。フリーランサーの役務提供は取引コストが高いため、運営側としてもakippaのような手数料50%という強きの設定はできないのでは無いか。

 

参考:クラウドソーシング最大手の「アップワーク」がIPO(新規株式公開)! 「フリーランスのUber」と呼ばれる注目企業のビジネスモデルや業績を解説!|世界投資へのパスポート|ザイ・オンライン

 

事業変数は供給側の変数・駐車場数にあり

マーケットプレイス型のプロダクトであるので、KGIはGMVで捉えて問題ないと思う。手数料モデルなので、GMVを伸ばしていくことが至上命題。

まず、GMVは、貸出利用数×貸出料金単価に分解することができる。「貸出料金単価」に関しては、そもそもとして既存の駐車場よりも安いことをメリットとして押し出しているので、積極的に伸ばしていくことは難しく、ポイントは貸出数になるのではないか。

次に、貸出利用数は、貸出利用UU数×UUあたり貸出利用数に分解することができる。この2つの変数に関しては、いづれも運営側でコントール可能な変数であり、この2点に関して掘り下げる。

 

UUあたり貸出利用数はどのように伸ばす

UUあたり貸出利用数を噛み砕くと、駐車場を借りたい人が1人あたり何回貸出を利用するか、である。

したがって、リテンションのKPIが絡んできており、ポイントとしては例に漏れず以下ではないか。

  • 初回体験をどのようにさせるか
  • 1回目から2回目の体験をどのようにさせるか

憶測にはなるが、akippaのサービスは1回体験をしてしまうと、その便利さから普通の駐車場にはもう戻れない、といったプロダクトとしての強みがある様に感じる。なぜなら、従来よりも取引コストが圧倒的に低いので。

そのため、いかに初回体験をさせるかが論点であり、この点に関してはUberのようなリファラルキャンペーンや初回体験無料キャンペーンが非常に有効であると思われる。

 

貸出利用UU数をいかに伸ばすか

貸出利用UU数を噛み砕くと、駐車場を借りたい人が貸出利用をする人数、である。貸出利用UU数は新規ユーザーと継続ユーザーに分解することはできる。

継続ユーザーの1ヶ月後、3ヶ月後、半年後のリテンションレートは高そうである。また、新規ユーザーの獲得に関しても、顕在的なニーズであるためSEMは効きそうであり、Webマーケティングでクリティカルマスを集めることができそう。

 

ポイントは駐車場数

駐車場を借りたい人視点でのKPI分解を行ったところ、借りたい人よりも貸したい人を集めることの方が難しそうであるとことに気がした。

したがって、このマーケットプレイスにおいては、流動性の確保のためには駐車場数を担保することが重要であるように思う。

実際にakippaが紹介されている記事には以下のような情報があった。

  • 2018年4月時点で会員数は70万人以上
  • 累積の駐車場拠点数も2万箇所を超えている
  • 特に1年で倍以上になったという拠点数については、個人のものだけでなく大手企業が提供する駐車場が増加傾向
  • コインパーキングやSUUMO月極駐車場を提供するリクルートなど、同業他者との連携も積極的に行ってきた
  • 前回のラウンド(2017年5月)以降はとにかく駐車場を増やすことにフォーカス
  • 需要に対して供給が全く追いついていない状況
  • 供給不足の打開策としてakippaが着手したのが、これまで導入が難しかったゲート式駐車場の開拓
  • ARPU(アープ / ユーザー1人あたりの平均売上高)を増やす1番の方法は駐車場を増やすこと

 

出典:駐車場シェアを超えたモビリティプラットフォーム目指す「akippa」、住商らから8.1億円を調達 | TechCrunch Japan

したがって、GMVの見方としては、貸出利用数×貸出料金単価ではなく、駐車場数×駐車場単価であり、現在は需要過多の状況であるとすると、駐車場数を増やしても駐車場単価は下がるというトレードオフは起きず、駐車場数を増やせば増やす程、GMVが伸び、結果として手数料による粗利も増えていく。

また、駐車場数を増やすための打ち手としてはシェアゲートというテクノロジーであり、かなりワクワクする内容。

その他にもトヨタとの業務提携で、ナビにakippaの駐車場が表示されるなど、かなり本質的なアライアンスも行っている。確かに駐車場数を増やしていけば、GMVも伸びそうであり、今後の成長が非常に楽しみ。

フリーランス美容師と美容院の面貸しマーケットプレイス・MIRRENTAの勝手な考察

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美容師への面貸しマーケットプレイス・MIRRENTA

まず、面貸しとは、美容院で空いている席(及び設備)を貸し出すことを業界では面貸しと言う。その面貸しのマーケットプレイスを展開しているのがMIRRENTA。以下のユーザーから成り立っている。

  • 美容師:自分で店舗を構えていないので、カットする場所を貸して欲しい
  • 美容院:席が空いているので見栄え的にも売り上げて的にも空席を無くした

美容師にとってのメリットとしては以下の通り。

  • 自分で店舗を持つ必要がない
  • 自分の好きな時間に働くことができる

一方で、美容院へのメリットとしては以下の通り。

  • 空席を埋めることで売り上げへの寄与
  • 店舗に活気があるように見える

まさに、フリーランス美容師といった様相で、美容師の業界にもシェアリングエコノミーが浸透してきているんだなと感じる。

対象が店舗を持たない美容師となるので、市場規模としてはそこまで大きくないのかもしれないが、面白いので、掘り下げて調べてみる。

 

MIRRENTAの取引構造

まず、取引構造の整理からで、以下の通り。

  1. 美容院または美容師から面貸しのリクエストを送る
  2. 金額などの条件をすり合わせ、契約を取り交す
  3. 美容師が美容院へ行き、カットする
  4. 美容師は利用料、美容院はマッチング料を支払う

利用料やマッチング料に関しては、マネタイズの部分なので後述。

「2.金額などの条件をすり合わせ、契約を取り交す」という取引に必要なコストをいかに下げることができるかがポイントだと感じた。

すり合わせにあたり以下が面倒臭そう。

  • 材料をどこまで使っていいのか
  • 使うにせよ、何がどこに置いてあるのか、誰が教えてくれるのか
  • 店舗にある機材で十分に対応をすることができるのか
  • 金額はどのように折り合いをつけて決めるのか

そう考えると、このマーケットプレイスAirbnb型。つまり扱っているモノ=店舗は画一的ではなく、店舗の雰囲気や立地、提供可能な材料など、オリジナリティがある。

そのため、美容師は可能な限り自分の希望に添う店舗を探したいので、検索性がポイントになってくる。例えば、「貸出可能な材料のフィルタリング」「利用料の割合でフィルタリング」など。現状としては、MIRRENTAでは検索性に関してそこまで注力をしている感じではなさそう。

また、利用料に関しては、店舗ごとに歩合制や月額制など、フォーマットが様々で美容師は混乱をしてしまいそう。 かつ美容院側の取り分も各々が決めている状態。

この点に関しては、価格設定の権利はオリジナリティがあるマーケットプレイスの場合、売り手(今回でいうと美容院)が握っていても良いと思うが、「どのくらいが美容院の取り分とするか」は運営側で定めた方がいいのではないかと思う。(例:制約金額の20%を手数料として事務局に納める等)

 

MIRRENTAは価値を「場」ではなく「出会い自体」に設定

プランと料金に関しては、いくつかあるみたいだけど、このマーケットプレイスというところで中心的なマネタイズとしては、 美容院に対するマッチング費用:20,000円/1件となっている。

一瞬「美容院に対して成果報酬で課金するのか!」と驚いた。多くのマーケットプレイスでは、成約金額のN%を手数料としているところが多いので。その考察を以下で行う。

 

実態としては人材紹介モデルに近い

あくまで想像でしかないが、美容院に対する課金をしている理由は以下ではないか。

  • 上記のように美容院側に価格設定の権利をかなり与えている
  • 美容院側は美容師からの儲けを最大化しようとする
  • 美容院はある程度のまとまった儲けを美容師から得る
  • そのマッチングに対して事務局は美容院へ課金する

以上から、MIRRENTAは価値のポイントを「MIRRENTAという場」ではなく「美容院と美容師の出会自体」に置いているということが分かる。

具体的には、MIRRENTAという場に価値を置いているのであれば、恐らく成約金額のN%といったマネタイズが妥当。しかし、そうではなく出会いに対して価値を置いているので、マッチング費用という形でマネタイズを図っている。ということで驚きが解消された気がする。

したがって、モデルとしては人材紹介に近いかもしれない。マッチングしたらいくらです、といったモデルであるという意味で。

 

ネットワーク効果を引き起こすことは難しそう

確かに、このモデルであれば、マーケットプレイスであるあるな直接取引を避けることができる。美容院と美容師のマーケットプレイスアメリカの家事代行マーケットプレイスとして名を馳せたHomejoyと同じように、売り手と買い手の距離が近いために、直接取引の温床となりやすい。

しかし、マーケットプレイスの最大の旨味でもあるネットワーク効果の可能性が無くなってしまっているのは、もったいないように感じた。

「出会い自体」に価値を置く場合、ユーザー(特に美容師)としては1回出会ってしまったら、サービスに戻ってくる動機や理由が無くなってしまう。そうなると、マーケット(MIRRENTA)に「厚み」は生まれなくなり、常にユーザー(特に美容師)は入れ替わり立ち替わりになる。

もちろん過去の経緯も知らないし、今後の計画も把握はしていないので、分かりかねるが、仮にマーケットプレイスとして機能していくには以下がポイントになりそうだと感じた。

  • 価値を「場」そのものに設定する
  • 売り手(面貸ししてくれる美容院)を集める
  • マネタイズは成約金額のN%を手数料として受け取るようにする
  • 美容師の細かな検索ニーズに応えるために、検索性を抜群にする

 

美容師・美容院の業界でIT的な側面でのインパクトのあるニュースを聞いたことがなかったので、掘り下げて調査してみた。美容院に限らず「空席」は貴重な遊休資産。どの業界でも思考をするにあたって良い観点となりそう。